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『1917/命をかけた伝令』って、そんなに傑作ですか?

どうも、とりふぁです。

今回は、久々に最新作のご紹介。

今回扱うのは、アカデミー賞作品賞『パラサイト/半地下の家族』と争った作品であり、多くの人が、これが作品賞を獲るだろうと考えていた作品、『1917/命をかけた伝令』です。

本作は、各所で【全編ワンカット】なんて宣伝をされていますが、実際は、巧みな撮影技術と編集技術により、ワンカット風に見せている作品です(それでも十分凄いんですけどね)。

そして何より、明確にカットがかかるシーンもあります。

そんなワンカット手法で撮られた本作なわけですが、個人的には、「これ、ワンカットにこだわらないほうがよかったんじゃ……」と思う作品でもありました。

今回は、その理由にも触れつつ、ネタバレなしでご紹介していきますね。

(とはいえ、作品構造的問題に触れているので、本レビューを観てから観に行くと、素直に楽しめない恐れもあります。それが気になる方は、是非とも、観賞後にまた読みに来て頂ければ幸いです)

 

 

『1917/命をかけた伝令』のあらすじ

1917年4月6日。

第一次世界大戦の渦中にあるヨーロッパ。

この日、ドイツ軍が西部戦線から撤退したと睨んだデヴォンシャー連隊は、ドイツ軍を壊滅させるべく、追撃の準備にとりかかっていた。

しかし、同じ頃、デヴォンシャー連隊の後方に控えるイギリス軍司令部では、ドイツ軍の撤退が罠であり、追撃部隊を迎え撃つ用意があることを掴んでいた。

しかし、ドイツ軍の手により、デヴォンシャー連隊との通信手段は断たれてしまっている。

このままでは、デヴォンシャー連隊1,600人の命が危ない。

そこで、司令部では、徒歩による伝令を派遣するという作戦が立案された。

選ばれたのは、トムとウィルの二人の兵士。

既にほぼ撤退が完了しているとはいえ、たった二人で敵陣を突っ切るという無謀な作戦。

しかし、彼らは行かねばならなかった。

なぜなら、デヴォンシャー連隊には、トムの兄がいるのだから——。

「幸運を祈る」

 


驚異のワンカット風映像がWWⅠの最前線へと我々を誘う

本作でまず語らねばならないのは、なんといっても(ほぼ)全編に渡るワンカット風の映像でしょう。

本作は、トムとウィルが木陰で休憩しているシーンから始まり、ラストシーンまで、ほぼほぼワンシーンワンカットで展開していきます。それ故に、二人の歩みが進むごとに、戦場の様相がだんだんと変わっていくのがありありと映し出されるという効果はもちろんのこと、観客である我々も、彼らに随伴し、行動を共にしているかのような錯覚に陥るのです。

その映像的没入感は凄まじく、まさに体験する映画といえる域に達しています。

しかし、ワンシーンワンカットによる没入感は、観ているうちに慣れてしまいますし、また、本作の場合、カメラが何かの裏を回り込んだり、暗がりに入ることで擬似的に(そしておそらく実際的にも)カットが入るので、持続するワンカットの意味は、途中でなくなってしまうのです。

しかも、(擬似)ワンカット撮影は、ワンカットであるがゆえに演出的制約も多く、言ってしまえば、演出方法がある程度パターン化してしまい、先に何が起きるのかが読めてしまいがちなのです。

そんなワンカット撮影において、最も効果的な演出は、個人的には、【閉じた場所から開けた場所へ出る瞬間】だと思います。

狭く、クローズアップ気味だったところから、全くカットを割らずに、今度は、広く、ロングなショットへと移った時の【一気に世界が広がる感じ】ワンカットだからこその高揚感(または、緊張感)に溢れています

第一次世界大戦といえば、狭っ苦しい塹壕戦というわけで、もちろん本作でもこの効果を狙ったシーンはいくつかあります。

中でも、最初の一つと最後の一つは、間違いなく、本作の白眉でしょう。


没入感は凄い……けど

前述してきた通り、本作は没入度が高く、また、ワンカット撮影の強みをきっちり活かした見せ場もあります。

しかしながら、個人的には、本作はワンシーンワンカットにこだわるべきではなかったと思うのです。

というか、【伝令というミッションと、ワンシーンワンカットは食い合わせが悪い】と思いました。

というのも、ワンシーンワンカットは、その撮影技法ゆえに、どうしても【リアルタイム性】を持ってしまうのです。

要するに、カットが切れないから、大幅な時間経過を描くことができず、どうしても【上映時間=主人公達の経験した時間】となってしまうわけですね。

それに対し、伝令は、長い距離をひたすら移動し、目的地へ向かうという任務です。

これでもう分かるかと思うのですが、要するに、ワンシーンワンカットだと、長い距離を移動したという事実が嘘になってしまうというか、すごく小さなところのお話しに感じてしまうんですね。

特に本作の場合、移動は基本的に徒歩ですので、【2時間歩いただけで、自陣から敵陣を突っ切って通信が断絶した味方部隊のところまで行った】ということになるわけです。

しかも、もちろん映画ですから、2時間ずっと移動しているわけではなく、途中、停滞したり戦ったりもあります。

そうすると、ますます【近場の話】になりますよね。

一応、車に乗ったりもするのですが、実は個人的にはここで冷めてしまったのです。

というのも、ワンシーンワンカットで車のシーンを入れるとなると、どうしても出来てしまう【間】をどう詰めるかということになるのですが(車が登場した時点で、その点を「どう処理するんだろう?」と思ってしまったのもマイナスでした)、その詰め方が、ちょっと個人的には笑っちゃうくらい酷くて、なんなら、「乗ってすぐ降りてるじゃんか」くらいに感じてしまったのです。

詳しくは書きませんが、前後の出来事からすると、車の登場の仕方もどうかと思いましたしね……。

ということで、私の場合、それ以後のシーンは、ワンシーンワンカットであるということの最大の弱点を露呈させるハメになってしまいました。

それは、没入できているうちは楽しいけれど、冷めてしまうと、もう、ワンシーンワンカットであるということが気になって気になってしょうがないということです。

最初から最後まで没入できていれば、多分、気にならなかったとは思うんですけどね……(前述した【近場の話】感も、没入していれば感じなかったと思います。没入=時間感覚の喪失ですからね)。

おそらくなんですけど、本作は時間経過に関しては多少の嘘をついているのだと思います(時間経過のあるゲームのように、実時間よりも早く作品内時間が経過しているというような)。

その嘘に気付かなければ、最後まで楽しめるのでしょうけど、気づいてしまうと、個人的には、ちょっともうダメでした。

そういった点から、伝令とワンカット撮影は食い合わせが悪いなぁと感じたのです(ラストシーンを観ると、やりたかったことはわかるんですけども……)。

戦争映画でワンカット撮影するなら、おそらく、局地戦や篭城戦がいいのではないでしょうか?

それなら、時間的制約によるスケール低下は関係なかったかと思います。


さすがのロジャー・ディーキンス

とまぁ、そんなわけで、ワンシーンワンカットであるということには個人的には疑問のある本作なのですが、しかしながら、その画作りの美しさは素直に素晴らしいと感じました。

さすがは、数々の作品で賞をとってきた超大御所撮影監督ロジャー・ディーキンスです。

彼の類稀なる撮影センスと技術により、緊迫感のある戦場ながら、絵画のように美しく、格調高い雰囲気が漂っている映像の美しさは、筆舌に尽くしがたいものです。

この美しさを堪能できただけでも、映画館で観た価値はありました(欲を言えばIMAXで観たかった……!!!)。


まとめ

ということで、『1917/命をかけた伝令』のご紹介でした。

今回は苦言多めの内容になってしまいましたが、それもこれも、私の本作への期待が高過ぎたがゆえです。

なにせ、ワンシーンワンカット(風)の戦争映画というそれだけでも面白そうな題材で、なおかつ、アカデミー作品賞最有力候補だったわけですからね。

ですが、私の場合、その期待は裏切られてしまいました。

Twitter等を読んでいると、かなり大絶賛な方が多いのですが……すいません、個人的には、そこまで絶賛できる作品でもなかったかなっていうのが私の感想です。

なんていうか、こういう【キチンとした戦争映画】って、ある程度の出来は担保されてると思うんです。

その上で本作は、そのある程度の出来には達していましたが、私としては、そのさらに上を期待しており、しかし、そこには達していなかった

言うなれば、【80点とれて当たり前の題材で80点】みたいな感じと言いましょうか。

もちろん、ところどころグッと来る部分はありましたし、基本的には満足行く作品でした。

しかし、「世間で大絶賛するほどかなぁ?」というのが私の正直な感想です。

とはいえ、これはもちろん私個人の感想。

皆さんがどう思うかはそれぞれだと思いますし、現に、あちこちで絶賛されているわけですから、やはりいい作品であるのは事実だと思います。

そして、もう一つ言えることは、本作の計算され尽くした画の美しさや、戦争映画らしい大迫力の音響効果などは、映画館でこそ最大の効果を発揮するのは間違いありません。

ぜひぜひ、劇場でご覧ください!!

そして、あなたの感想をお聞かせいただければ幸いです(*´꒳`*)


※本日ご紹介した『1917/命をかけた伝令』は、2019/2/17現在、全国の映画館で公開中です。


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