悲劇も度が過ぎると喜劇『アフターショック』
悲劇的なお話しは好きですか?
自分の身には起きて欲しくないと思いつつ、たまに悲劇的な気分に浸りたい時もある。私の場合は、そんな感じで、たまに悲劇に触れたくなります。
しかし、その悲劇も、度が過ぎてしまうとどうなるでしょう?
なんと、一転して喜劇と化してしまうのです!
というわけで、今回は、あまりにも悲劇的過ぎて逆に笑ってしまう、そんな作品のご紹介です。
『AFTER SHOCK/アフターショック』のあらすじ
南米、チリを旅行中のグリンゴは、現地ガイドのポヨ、アリエルらと共に、チリを満喫していた。
彼らは、道中でナンパした美女三人組、モニカとカイリー姉妹、ロシア人のイリーナと共に、今日も楽しくバルパライソのクラブへ繰り出す。
しかし、そんな呑気な六人組を、最悪の超巨大地震が襲う。
さらに、津波警報が鳴り響く中、地震により崩壊した刑務所から、凶悪なギャング達が脱走。
底抜けに楽しく、美しい街だと思っていたバルパライソが、秩序なき混沌へと飲み込まれていく——。
「日程をたった一日伸ばすくらい、別にいいでしょ!」
レビュー
というわけで、『ホステル』、『グリーン・インフェルノ』など、過剰な暴力描写に定評のある(と言いつつ、両方とも未見です。観たいんですが、痛いのが続く映画って、なんとなく踏ん切りが……絶対好きだと思うんですけどね汗)イーライ・ロスが主演、製作共に関わった作品、『アフターショック』のご紹介です。
この作品、個人的にはとても面白く観たのですが、かなり人を選ぶタイプの作品だと思います。
具体的に言えば、【悲惨な目に遭っている人を笑い飛ばせる神経の持ち主】であれば、間違いなく楽しめます。
※誤解しないで欲しいのは、これはあくまでも【フィクションだから笑える】のであって、現実に、こんなことに巻き込まれている人を見て笑い飛ばせるなら、それは、サイコ的な何かだと思います(汗)
前半30分はゆるい
さて、本作ですが、前半30分はとにかくゆるいです。物語的な起伏があるわけでもない、ある意味、どうでもいいとすら思うほどのゆるさです。
なんなら、ぼんくら男三人の旅行を記録したホームビデオと言っていいレベルです。
しかし、ここで描かれる、ゆるくてささいな人間模様が、後半のひたすらキツいだけの展開でジワジワ効いてくる。そこが、本作の上手いところです。
悲惨過ぎるという喜劇
前半30分、たっぷり、ぼんくら男達のぼんくらっぷりを堪能したあとは、60分間ノンストップの悲劇、悲劇、また悲劇です。
あまりにも悲惨過ぎるため、どんな目に合うかを、一つ一つ書き連ねていきたいのは山々なのですが、ここを詳しく書くと、面白さが削がれるタイプの映画だと思うので、多くは語りません。
ただ、一つ言えることは、「ここまで悲惨だと寧ろ笑える」というか、状況があまりにも悲惨なので、「笑うしかない」です。
正直、私の知る限り、ここまで悲惨な目に遭う主人公達は他にいません(笑)
その悲劇を真っ正面から受け止めてしまうタイプの見方をしてしまうと、「救いはないのか?!」と、怒り出してしまう方もいるかもしれません。しかし、これは、そういうタイプの作品ではないのです。
本作を鑑賞するなら、スプラッタ映画を楽しむように、笑いながら怖がるのが正しい鑑賞スタイルです。
笑い飛ばすだけの映画でもない
ここまで読むと、「ようするに、悪趣味で低俗な映画なのね」と思うかもしれません。もちろん、それはある意味で正解なのですが、しかし、それだけではないのが本作の魅力です。
悪趣味で低俗で、とにかく悲惨。
でも、だからこそ、そんなどうしようもない状況だからこそ、最後の最後に残った人間的尊厳が垣間見えるのです。
あんなにクソ野郎だったアイツが、友人のために流す涙の美しさ。
思わずやってしまったあることと、そのために、心底、自己嫌悪に陥ってしまう姿。
そういった、人間の多面性がしっかり描かれている。そういうところが、本作を凡百の悪趣味スプラッタとは一線を画させているのです。
恐怖を真摯に描いた結果
また、この映画の題材である【震災】と、それによってもたらされる【悲劇】のことを考えると、我々の感覚としては、「不謹慎だ!」と怒り出す人もいるかもしれません。
ですが、ちょっと待ってください。
本作は、【震災】をネタにしてやろうという、真の意味で低俗な映画ではないのです。
なぜなら、本作の原案と監督を手掛けたニコラス・ロペスは、2010年のチリ地震で被災し、その体験をもとに本作を作っているからです。
つまるところ、自分自身が感じたり、体験したりした恐怖を、しっかりと見つめ直し、煮詰め、作品に昇華しているのです。
彼自身が、「こんなことは真底嫌だ」と思っているからこそ、こういう映画が出来上がったのです。
事実、私は笑いながら観ましたが、真面目に観れば、そして、登場人物に感情移入すれば、こんなに怖いことはありません。
ジェイソンに寝込みを襲われるよりも、セガールに手首を取られるよりも、圧倒的に怖いし嫌です。
要は、見方次第なのです。
まとめ
以上、『アフターショック』のご紹介でした。
ちなみに、脚本や小説を書く上で、一つ、こんな鉄則があります。
「物語を面白くしたければ、登場人物をとことん追い込め」
人は、極限状態になればなるほど、その真の能力や、本当の人間性をさらけ出します。
そして、そのさらけ出す姿こそが、物語における最もエモーショナルな瞬間なのです。
その意味で言えば、本作は、間違いなく傑作です。
それほどまでに、追い込みっぷりが凄まじい。
もちろん、不満点がないわけではないですし、映画史に残る! というような作品でもありません。
ですが、【今まで見たことがないレベルで悲惨な目に遭う主人公達】という、唯一無二の魅力がある本作。
間違いなく、一見の価値ありです。
※今回ご紹介した『アフターショック』は、2019/10/10現在、アマゾンプライムビデオにて無料配信中です。