教育と命を問う、ぶっ飛んだ映画『チャッピー』
どうも、trifaです。
皆さんは、ニール・ブロムカンプという監督をご存知でしょうか?
今回は、そんなニール・ブロムカンプ監督作、『チャッピー』をご紹介します。
『チャッピー』のあらすじ
近未来のヨハネスブルク。
政府は、増加する犯罪への抑止力として、人工知能搭載型の警備ロボットを大量購入し、警察へと配備した。
それは、一定の効果をもたらし、安全とは言えないまでも、犯罪に対するカウンターとしては十分な成果を発揮したのだった。
そんな中、その警備ロボットの人工知能を開発した張本人であるディオン・ウィルソンは、長年の夢だった、学習し、思考する人間のような人工知能の作成に成功する。
彼は、その人工知能を使った実験を上司に進言するが、あっさりと断られてしまう。
それでも夢を諦められない彼は、廃棄処分予定だった警備ロボットに人工知能を搭載することを思いつく——。
「ボク、生きたい。ママといたい。死ぬのは、嫌だ!!」
レビュー
ロボットの造形が素晴らしい
本作の監督、ニール・ブロムカンプは押井守や、士郎正宗などが大好きと語る、生粋のオタク監督です。
そのためかどうかは分かりませんが、本作におけるロボットも、素晴らしい造形をしています。
警備ロボットは、私も生涯ベスト級に好きなメディアミックス作品『機動警察パトレイバー』における主人公機、AV-98(イングラム)にも似たヘッドに、工業製品ライクで無骨なボディという、ツボを押さえたデザインになっています。
それでいて、主人公となるチャッピーは、目元のデジタルサイネージに表示される目の表情と、豊かな”耳”の動きで愛らしさを表現しています。
無機質なロボットに、ちょっとした動きの変化を付けるだけで【命】を表現するというのは、Pixerの傑作SFアニメ『WALL•E』でも使われた手法ではありますが、さらにフォトリアルな作品でやられると、やはり見事と言わざるを得ないですね。
また、機体が故障し、スペアパーツを装備することで個性が生まれるというのも、ロボット好きにはたまらないポイントだと思います。
しかしながら、個人的に本作で最もアガッたのは、敵となる巨大ロボット、【ムース】のデザインと装備です。
これは、明らかに『ロボコップ』の敵ロボット、ED-209を意識していると思うのですが、個人的には、さらにその亜流とも言える、PSのゲーム『METAL GEAR SOLID』に登場した、メタルギアREXを連想しました。
逆関節の脚部に角ばったボディ、そして、呆れるほどの重火器とくれば、スキモノ男子はヨダレものだと思います(笑)
しかも、そんな機体が人体を踏み潰し、さらにクラスターミサイルを繰り出す! これはもう確実にメタルギアも参考作品の一つでしょう!!
その他、ギャングが使う銃も一丁一丁ド派手な原色のペイントがされていたりして、こういう、メカや銃器へのフェティッシュな描写もブロムカンプ作品の楽しみですね。
エンタメの中に鋭いテーマを盛り込んでいる
そしてもう一つ、ブロムカンプ作品で私がいいな、と感じる要素は、非常にエンタメ性の高い映画ながら、扱うテーマは極めて鋭いという二面性です。
しかも、そのアプローチの仕方が、SFならでは、というところがまた素晴らしい。
SFというジャンルは、ギミックの面白さがもちろん大事な要素なのですが、同時に、そういったギミックを用いるからこそ描ける寓話性というのがあると思います。
例えば、『マトリックス』シリーズであれば、仮想現実というギミックを用いることで、社会の歯車(システム)として生きることの意味や、本当の自由とは何なのかを問いかけて見せました。
あるいは、『第9地区』では、少数派である異星人を用いることによって、差別意識や多様性の享受といったテーマを突き詰めて見せました。
その上で本作は、チャッピーという、未成熟にして終わりが定められているAIというギミックを用いることで、【教育とは何なのか】や、【命とは何なのか】ということを我々に突き付けて来ます。
①教育とは?
例えば、チャッピーを育てることになる人々は、皆、チャッピー同様、どこか未成熟で、欠陥を抱えている人々ばかりです。
しかし、チャッピーは、そんな人々との関わり合いの中で、時に間違いを犯しながらも、自分なりの価値観を築き上げていきます。
そしてまた、チャッピーを育てた人々も、チャッピーを育て、チャッピーと関わることで、少しずつですが変化し、成長していきます。
これって、現実の育児にも当てはまりますよね?
人間、誰しも完璧ではありません。だからこそ、子を育てるということは、時に間違いを犯すことでもあります。しかしながら、その間違いも含めて、子は、そこから、その子だけの【何か】を掴み、築き上げていくのです。
それは、親が思うものとは違うかもしれませんし、寧ろ、ある意味ではそうあるべきでしょう。
そして、そんな風に子を育て、子が育っていく過程で、親もまた成長させてもらえる、いえ、成長しなければなりません。
それが、子育て、ひいては、大きな意味での教育の本質(親と子の関係を、師と生徒に当てはめても同じことが言えるため)だと思います。
②命とは?
そして、もう一つ、本作で扱われる大きなテーマが、【命とは何なのか?】ということです。
これは、ある意味、【意識とは何なのか】というテーマともイコールと言えます。
そしてこれは、手を替え品を替え、様々なSF作品で描かれてきたことです。
『攻殻機動隊』や、『銃夢』(『アリータ/バトル・エンジェル』の原作である日本の漫画作品です)では、身体が機械と交換可能になったとすれば、何を持って意識、あるいは命と定義するのかというテーマが描かれていますし、アイザック・アシモフの短編集『われはロボット』を大胆にアレンジした映画、『アイ,ロボット』では、本作のチャッピー以上に高度なAIが、自らの存在意義と命の本質を探すという物語でした。
その他にも、そういった作品はごまんとあります。
そんな中、本作では、【命とはなにか】というテーマを投げかけた上で、それを定義し、ラストでは、その更に先へと突き進んでいきます。
その展開には賛否両論あるでしょうし、ハッピーエンドともバッドエンドとも言えない、なんとも居心地の悪い結末が用意されているわけですが、この意地悪さこそ、ブロムカンプ作品の真骨頂でしょう。
それを提示した上で、本当の結論は観た人に丸投げする。
そう、本作は、疑問を解き明かす話ではなく、疑問を投げかける作品なのです。
そう考えて観てみると、あのラストは完璧なラストと言ってもいいのではないでしょうか?
ただし、ゆるさもある
ここまで、本作の素晴らしさや意義深さを語ってきましたが、だからといって、本作を一から十まで完璧な傑作とは言いません。
というか、細かな部分を見ていけば、結構、アラも目立つ作品ですし、そういったモノが気になる方は、かなり気になってしまうバランスだと思います。
しかしながら、全てはあのぶっ飛んだ結末のためだと思えば、個人的には納得できる範囲です。
まとめ
ということで、『チャッピー』のご紹介でした。
正直、賛否両論がばっこり割れている作品ではありますが、個人的には非常に面白い作品でした。
特に、教育についての描写は、なかなか鋭いモノがあると思います。
そして、あの結末。
「それ、お前にとってはいいかもしれないけど、本当にいいの? っていうか、そんな簡単にできちゃっていいの? てか寧ろそれができちゃったら色々問題あるよな?!」
そんなノイズが頭の中を駆け巡るラストではありますが、「これでこそ!」だと思います。
エンタメなんですし、こういう、多少ぶっ飛んだモノを用意してもらった方が、個人的には刺さります。
『第9地区』だって、二幕目以降のあの展開とあの結末があったからこそ、あそこまで話題になったわけですしね。
個人的には、『第9地区』に負けず劣らず、好きな作品でした!
※今回ご紹介した『チャッピー』は、2019/11/18現在、アマゾンプライムにて無料配信中です