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『FURY』は演技を楽しむタイプの映画

映画には、ジャンルとは別に、魅せ方にも分け方があると思います(狙っているかいないかは別として)。

例えば、『オールド・ボーイ(スパイク・リー版は未見なので、パク・チャヌク版です)』や、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のように、巧みな脚本で魅せる映画。あるいは、『シックス・センス』や『セブン』のように、強烈なオチで魅せる映画。または、『ブレード・ランナー』や、『スター・ウォーズ』のように世界観で魅せる映画。

その他にも、アクションで魅せる映画や、舞台美術で魅せる映画など、色々あります。

そんな中で、今回は、役者の名演で魅せるタイプの映画のご紹介です。

『FURY/フューリー』のあらすじ

第二次世界大戦末期、アメリカは、いよいよドイツ本国へ攻め入った。

そんな中、アメリカ軍第2機甲師団第66機甲連隊に所属する【ウォーダディ】こと、ドン率いるシャーマン戦車【FURY】の面々は、数々の戦線を生き抜いた、【家族】だった。

しかし、激戦の中で副操縦士を失ってしまう。

満身創痍ながら、なんとか味方部隊に合流した【FURY】であったが、そこで副操縦士として配属されたのは、戦闘に参加したことすらない、タイピスト(戦線から遠く離れた場所で、報告書などを打つ職種)志望の新兵、ノーマンだった——。

 「コイツは、俺の家だ——」 

レビュー

というわけで、今回は戦争映画です。

プラトーンや』フルメタル・ジャケットプライベート・ライアンブラックホーク・ダウンなど、名作が多く、それゆえに、観る側のハードルも上がりがちなジャンルですね。

しかしながら、この『FURY』は、見方を間違うと肩透かしで終わってしまうかもしれません。

事実、アマゾンのレビューなんかを覗いてみても、結構評価が低かったりしますし、実際観てみても、「言いたいことはわかる」と思いました。

とはいえ、ダメな映画かと言われると、「それは違う」と断固として言いたい。

そんな作品のレビューになります。

本作の残念なところは、戦闘描写

戦争映画といえば、やはり、血みどろで悲惨な戦闘描写や、巧みな戦術の妙なんかに期待するところが、多かれ少なかれあると思います。

その点でいうと、本作はダメです。

ドイツ兵がアホ過ぎますし、それに対して、主人公チームが強過ぎます。

例えば、本作最大の見せ場である【ホンモノのティーガーを使った中盤での戦車戦です。そこでは、せっかく88mm砲という、当時の戦車戦において、無敵とも言える遠距離火力を誇る、トンデモ兵器を積んでいるティーガーで、奇襲まで成功させたのに、なぜか前に出てきて、多対一の不利な至近距離戦を挑んできます。もちろん、主役たる【FURY】は、どんな攻撃も跳ね返します。たぶん、ガンダリウム合金製か、A.Tフィールド搭載機です(んなわけあるかい)。

もちろん、世界で初めてホンモノのティーガーを走らせた映画ですから、ティーガーを見せてナンボっていうところはあるんですけどね。

また、終盤では、ドイツ軍部隊が、たった一台のシャーマン戦車に、「一体何人ぶっ殺されたんだよ」というような、戦術も戦略もない、ただの突撃かましてきます。しかし、これまた、やっと食らわせたパンツァーファウスト(対戦車用榴弾筒)も、【FURY】には致命傷になりません。たぶん、ディストーショ(以下略)。

その他にも、細かいレベルではありますが、弾道の表現が【レーザービーム】みたいっていうのも、個人的には興醒め要素でした。

一応、あれは【曳光弾(えいこうだん。自分がどこを撃っているかを分かりやすくしたり、敵味方の区別をつけやすくするために発光するようになっている弾丸。残弾数を分かりやすくする意味もあるため、5発に1発などになっている)】なんだろうなと思わせるような説明セリフはありますが、それにしたってレーザービーム過ぎます(スター・ウォーズ』か)。

第一、映画上の描写だと、歩兵はもちろん戦車まで、「全弾曳光弾じゃねぇか!」って感じになってます。

——と言いつつ、私の知る限りでは、【曳光弾】に言及した作品はなかったと思いますので、そこは「フレッシュ!」と感じたあたりだったり。

まあ、そんな感じで、戦闘描写は甘々で、そこが大きな残念ポイントになっています。

本作の魅力

しかしながら、【戦闘描写がダメ】というだけで、本作を駄作扱いするのは、非常にもったいないです。

以下で、ダメな戦闘描写を補って余りある本作の魅力をあげていきます。

①実力派役者陣の名演が冴える

本作最大の魅力は、なんといっても役者達の名演。これにつきます。

特に、主役たる【FURY】のメンバーは、全員が実力派の俳優を揃えており、彼らの演技アンサンブルだけで、全編を持たせているといっても過言ではありません。

歴戦の猛者たる戦車長、【ウォーダディ】、ドンを演じるのは、もはや説明いらずな、魅力実力とも備えたブラッド・ピット

常に沈着冷静な砲撃手、【バイブル】を演じるのは、どんな役も器用にこなしつつ、独特な存在感を放つ、個性派にして実力派、シャイア・ラブーフ

粗野でトラブルメーカーな一面もありつつ、誰よりも熱い男、【クーンアス】は、超人気テレビドラマウォーキング・デッドでも、シェーンという複雑なキャラクターを見事に演じ切ってみせた、ジョン・バーサル

ちょっと抜けてる陽気なムードメーカー、【ゴルド】には、アントマンで爆笑を掻っ攫ったマイケル・ペーニャ

そして、主人公である新兵、ノーマンを、作品に恵まれているとは言い難いながら、パトリオットバタフライ・エフェクトなど、子役時代からキラリと光る、ローガン・ラーマンが演じています。

そんな名優達が演じるのは、戦場ならではの、非常に濃い人間関係です。

そもそも、戦車兵というのは、狭っ苦しい戦車の中で、もし誰かがミスって砲弾の一発でも直撃させられれば、全員死ぬという、まさに運命共同体なわけです。

生まれたところは違っても、死ぬ場所は同じ。だから、【家族】である。それが、戦車兵という兵種です。

そんな濃い人間関係を描く上で、上手い役者を揃えるというのは、絶対条件でしょう。そして、本作ではそれを成し遂げています。

のみならず、撮影時に役者達は、【戦車兵】っぽさ、【家族】っぽさをより強く演じるため、撮影前の数週間を野宿しながら、戦車の中で生活したそうです。さらには、お互いをより深く知りつつ、演技テンションを上げるため、毎回、撮影前に、それぞれ殴り合いをしてから撮影に臨んだということで、その現場の壮絶さたるや、筆舌に尽くしがたしです(そこに、監督のデビッド・エアーも混じってたってんだから、本当に異常だよ!!)。

ちなみに、バイブル役のシャイア・ラブーフは、この撮影のために、「兵士がキレイだったり、顔に傷一つないのはおかしい」と言って、何週間もシャワーすら浴びず前歯を抜き、さらには自らナイフで顔をズタズタに斬ったってんだから、その入れ込みようたるや……というわけです。

その甲斐あって、全編に渡る彼らの名演は必見の出来です。

 

②戦車描写が素晴らしい

次の魅力としては、やはり、準主役とも言える【FURY】をはじめとする、戦車達の描写でしょう。

今まで、戦車が登場した戦争映画は数あれど、ここまで戦車をフィーチャーした映画は珍しいのではないでしょうか?  少なくとも私は初めて見ました(もっとも、戦争映画にそこまで明るいわけでもないのですが汗)。

指揮官、副操縦士、操舵手、砲撃手、射手、装填手が密室の中、一丸となって一台の戦車を動かす。

どこかが壊れれば、その場で直して運用する。そういった描写の数々を実写映画で観たのは初めてであり、とても興味深く観れました。

ゆえに、『World of Tanks(戦車をフィーチャーした対戦型ゲーム)』や、『ガールズ&パンツァー(女子高生ミーツ戦車という気が狂ったような設定のアニメ。その実、道スポ根アニメとして非常に面白い)』のファンには、間違いなく刺さるものがあると思います。

また、残念な点として書いた戦車戦の描写ですが、それはあくまで現実ベースのことであり、ガルパン目線で見るとアリということは言っておきます(笑)

分かりやすく言えば、黒森峰vsサンダースです(分かりづらい)。

 

③戦場の現実を描いている

さて、戦闘描写が残念と書きましたが、一方で、戦場描写は素晴らしいです。

例えば、焼夷弾に焼かれた兵士が、身を焼かれる苦しさから逃れるために、自分の頭を撃ち抜くところや、そもそもその焼夷弾を撃ったのがまさかの——というところは、なかなかの名シーンだと思います。

その他にも、既に死んでいる兵士であっても、きっちり殺しきるまで銃火を浴びさせようとしたり、人を殺せない甘ちゃんに、無理矢理敵兵を殺させたり、戦時下で暮らす一般人を、タバコで買って慰みものにしたりなど、【戦場の正しくなさ】をとても真摯に描いています。

というか、祖父が第二次世界大戦に従軍した経験を持っており、また、自身も海兵隊出身デビッド・エアー監督は、そこをこそ描きたかったようです。

これまでにもそういう映画はありましたが、それを、押しも押されぬ超絶ハリウッドスターであるブラピがやるというのが、本作の意義深いところでしょう。

まとめ

というわけで、今回は、賛否両論ある戦争映画『FURY』をご紹介しました。

改めてになりますが、戦闘を期待して観ると肩透かしをくらうと思います。しかし、戦場という極限状態を舞台としたヒューマンドラマとして観ると、とても味わい深い本作。

特に、【FURY】部隊の名演は、一見の価値ありです。

未見の方はもちろんのこと、観たけどピンと来なかったという方も、これを機に観てみてはいかがでしょうか?


※今回ご紹介した『FURY』は、2019/10/9現在、アマゾンプライムにて無料配信中です。