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極限状態で試される信念の物語『ハクソー・リッジ』

どうも、とりふぁです。

皆さん、メル・ギブソンさんはご存知ですか?

『マッド・マックス』リーサル・ウェポンなどで有名な俳優ですね。

 

さらに言うと、映画監督としての手腕がハンパじゃないです。

95年の『ブレイブハート』では、アカデミー作品賞、監督賞を含む5部門を受賞していますし、キリスト受難の12時間を強烈な映像で描き出した『パッション』では、時のローマ教皇「これは全て真実だ」とまで言わしめました。

そんなメル・ギブソンですが、実は、アポカリプトを撮ってから、今回ご紹介するハクソー・リッジまでの10年間、監督業から離れてしまっていました(自業自得なんですけどね)。

 

そんなわけで、映画ファン待望、10年ぶりのメルギブ映画、ハクソー・リッジのご紹介です!

 

 

 

ハクソー・リッジ』のあらすじ

時は第二次世界大戦の真っ只中。

過酷にして凄惨を極める戦場に、武器を持たない男がいた。

彼の名は、デズモンド・T・ドス。

敬虔なクリスチャンの一派である、セブンスデー・アドベンチストの家に生まれた彼は、その信仰と自分の経験故に、キリストの教え、中でも、【汝、殺すなかれ】に忠実であろうとしていたのだ。

しかし、時代が、状況が、その信仰を許さない。

そして今、誰も彼もが殺し殺される地獄の中で、彼の信仰と信念が試される——。

「神様、もう一人……あともう一人だけ、命を救わせて……!!」

 


レビュー

最悪の状況の中、たった一人で75名の命を救った男の実話

本作を語る上で外せないのは、【これは事実に基づく話しなのだ】ということだと思います。

というのも、仮に本作の物語がフィクションだったならば、【なんて作為的で理想的な話しなんだ】と受け取られかねず、そうなってしまえば、本作で描かれる、狂気的なまでに信念を貫き通すというテーマも、「でも、作り話でしょ?」となってしまうからです。

しかしながら、脚色は加えられつつも、ベースは実話ということで、そのテーマにどっしりとした重みと説得力が加わっています。

これが本作の背骨であり、味噌でしょう。

そもそも、本作のタイトルとなっているハクソー・リッジというのは、沖縄県浦添市にある、前田高地のことです。

その前田高地の北側は切り立った断崖絶壁になっていて、沖縄戦時、北側から攻めてきたアメリカ軍は、その断崖絶壁を見て、「まるで、弓鋸で切断されたような地形だ」と思い、Hacksaw(弓鋸)Ridge(尾根)と呼んだのだとか。

そして、そこで行われた戦闘の最中、自軍が崖下に撤退した後も、本作の主人公として描かれているデズモンドは崖上に留まり、負傷兵を次々と助け出して回り、最終的には、実に75名もの兵士の命を救いました。

しかも、戦場において、銃を持たず、一人の命も奪うことなくそれを成し遂げたのです。

なぜ彼は銃を持たなかったのか。

それには、宗教上の理由というのがあるのですが、しかし、それ以上に、彼の信念がそうさせたのです。

「汝、殺すなかれ」

彼にとって、この戒めを破ることは、戒律を破るということ以上に、彼が彼でなくなってしまうのと同義でした。

つまり、彼を彼たらしめている信念だったのです。

そして本作は、彼のその信念を徹底的に揺さぶってきます。

上官、仲間、規則、状況、時代。

次々と様々な形の暴力性を帯びて襲いくる、理不尽なまでの信念への揺さぶり。

普通なら折れる。誰もが折れる。折れれば楽になる。折れても誰も責めない。

しかし、彼は折れません。

なぜなら、もし折れてしまえば、他でもない彼自身が彼を責めてしまうから。

そうなれば、もう元の自分には戻れない。

戦争で変わってしまった父を通して、彼は、そのことをよく知っているのです。

しかし、そうだとしても、決して折れないというのは並大抵のことではなく、時に狂気的にも見えます。

狂気的なまでに自らの信念を貫き通す男。

それが、本作で描かれている【実在の人物】デズモンド・T・ドスなのです。

戦争映画の全てを詰め込んだ高密度な戦闘描写

本作は、さすがメル・ギブソンというような丁寧な描写の積み重ねで、全てのシーンが素晴らしいのですが、やはり、白眉は後半丸々を使った、ハクソー・リッジでの戦闘描写です。

艦砲射撃の煙の中から、ヌッと現れ、死すら恐れず突撃してくる日本兵の恐ろしさ。

必死に撃退するものの、ある者は撃たれ、またある者は突き殺されの壮絶な戦い。

そして、迫撃砲や手榴弾手足を吹き飛ばされ、乱暴にちぎられた肉の塊をビラビラとさせながら地を這う兵士達の阿鼻叫喚っぷり。

内臓をぶちまけ、脳漿を散らす、まさに最悪の戦闘

それを、容赦ない描写で全て見せつけてきます

この容赦ない描写は、もちろんプライベート・ライアン以降の表現ですが、ここまで悲惨なものは、私の観た中では、それこそ『プライベート・ライアン』冒頭のノルマンディ上陸作戦パート以来かもしれません。

 

戦争の悲惨さを伝えるのに、これ以上の表現はありませんね。

しかしながら、悲惨なだけで終わらせず、しっかり、ところどころにアガる展開を入れ込んでくるのがメル・ギブソンの上手いところ。

絶望的な状況からの大逆転が熱いトーチカ攻略。

死角から一方的に狙われる恐怖と緊張感、いかに敵を発見し、カウンタースナイプするかが燃える狙撃戦。

敵地の真ん中で息を殺す隠密行動。

そんな、戦争映画に求められる娯楽的要素が、高いクオリティと小気味良いテンポで展開していくので、どんなに悲惨な描写が多くとも、しっかり【面白い】のです。

このバランス感覚の良さが、メル・ギブソンが映画人達から愛される名監督である所以でしょう。

しかも、そんな戦争映画としての面白さに、さらに、デズモンドによる救出活動の面白さという、本作独自の面白さまで組み込まれているのです。

これほどまでにバランスの良い戦争映画には、なかなか出会えないと思います。

まとめ

ということで、メル・ギブソン10年ぶりの監督作、ハクソー・リッジのご紹介でした。

ここで書いた以外にも、俳優陣の演技が素晴らしいとか、ヒロインが嫁さん方の親戚の子にそっくりで、なんかすげぇ感情移入しちゃった(なんじゃそりゃ)とか色々あるんですけれど、とにかく、近年の戦争映画では圧倒的な面白さでした。

それでいて、狂気的なまでに信念を貫くというメッセージも非常に刺さったり……。

個人的に、今の環境がまさに、みんながこうしてるし、お前もこうしろよっていう同調圧力の中で、「いや、でも俺はやらない」っていう状況なので、なんかすごくグッと来ました

「ああ、俺、これでいいんだよな」っていうか。

ま、個人的な話なんで特に掘り下げたりはしないですけども(^◇^;)

でも、多分、デズモンドみたいな境遇の人って、結構いると思うんですよ。

そこで信念を貫くのか、それとも折れてしまうのか、迷うこともたくさんあると思います。

そんな時にも勇気をもらえる作品だと思います。

個人的には、折に触れて観返したい一本になりました。

メル・ギブソンさん、次回作はもうちょい早く観たいなぁ〜(笑)

 

※本日ご紹介した『ハクソー・リッジ』は、2019/12/25現在、アマゾンプライムビデオにて無料配信中です。

 

 

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