キアヌ・リーブスが悪徳警官?『フェイクシティ/ある男のルール』
皆さん、その人が出てるってだけで、とりあえず観たくなるほど好きな俳優っていますか?
私の場合だと、ブルース・ウィリス、ゲイリー・オールドマン、シルヴェスター・スタローン、ジャック・ブラック辺りでしょうか。
比較的最近だと、ロバート・ダウニー・Jrや、クリス・エヴァンスのようなMCU(マーヴェルシネマティックユニヴァースのこと。いわゆる、アヴェンジャーズですね)組や、トニー・ジャー、イコ・ウワイスのような東南アジア勢も好きです。
そんな、俳優で観ちゃう系の映画から、今回はキアヌ・リーブス主演、『フェイクシティ/ある男のルール』をご紹介します。
現代アクション映画の新機軸、『ジョン・ウィック』の最新作(執筆時点では、まだ観れていません涙)で盛り上がっているところですし、キアヌ様の過去作をチェックしておきましょう!
『フェイクシティ/ある男のルール』のあらすじ
ロス市警の警官、トム・ラドローは、ボスであるジャック・ワンダーの下で、違法かつ、時には容疑者の射殺すらいとわない、強引な捜査を行っていた。
そんなある日、ラドローは、元相棒のテレンス・ワシントンが、ラドローの違法捜査を内部調査班に密告したとの噂を聞く。
怒り狂ったラドローは、非番の日にワシントンの後をつけ、殴りつけようとした。しかし、ちょうどその時、ワシントンが立ち寄ったコンビニエンスストアを、二人組の武装強盗が強襲し、ラドローの目の前でワシントンが撃ち殺されてしまう——。
「俺の世界、現実の世界ではな、不幸は、不幸しか生まないんだよ」
レビューの前に
作品紹介に入る前に、主演のキアヌ・リーブスについて触れたいと思います。
ご存知の方も多いとは思いますが、キアヌの人生は、なかなか壮絶なのです。
恵まれない家庭環境と、悲しい別れ
まず、家庭環境がよろしくなかった。キアヌの父は、キアヌが3歳の頃に家族を捨てて出て行ってしまったのです。
その後は母と妹、そしてキアヌの三人で世界中を転々としながら暮らします。さらに、キアヌの母は、あちこちで再婚と離婚を繰り返すのです。そんな生活が子供に与えるストレスは計り知れません。
思春期には、5年の間に4つの高校に通っていますし、妹のキムは、10代で白血病を発症。キアヌは積極的に妹の看病をし、現在でも闘病生活を支えているそうです。
1993年には、共に『マイ・プライベート・アイダホ』で共演した、仕事仲間であり親友のリバー・フェニックスが、薬物の過剰摂取により他界。
また、1999年には当時の恋人ジェニファー・サイムが流産。それをきっかけに二人は別れたものの、その後も良き友人としての関係は継続。しかし、そのジェニファーも薬物摂取の末の交通事故により他界。
キアヌの人生は、困難だっただけでなく、親しい人との別れの連続だったのです。
キアヌ・リーブスという聖人
そんな壮絶な人生を歩んで来たキアヌですが、というよりも、だからこそと言うべきか、私生活では、かなりいい人として知られています。
例えば、誰も観たことのない世界観と映像技術で、世界中の映画ファンはもちろん、普段は映画を観ない層まで巻き込み、多くのフォロワー作品を生み出した『マトリックス』三部作(四作目の製作も決まりましたね!)でのこんなエピソード。
無事撮影を終えたキアヌは、「この映画の成功は特殊効果チームのおかげだよ」と言って、参加したクリエイター全員に、キング・オブ・アメリカンバイクとも言える、ハーレー・ダヴィッドソンのバイクを自費でプレゼントしたのです!(確かに、『マトリックス』のあの成功は、ウォシャフスキー兄弟【現在は姉妹】のヴィジョンを見事に具現化した特殊効果なしにはあり得ません!)
いったい、何人にプレゼントしたのかは分かりませんが、少なく見積もっても一台数百万はするバイクをポーンとスタッフ達にプレゼントする太っ腹さ!カッコ良すぎです!!
その他にも、キアヌは、家庭の問題で悩んでいるスタッフに2万ドルをボーナスとしてプレゼントしたり、撮影期間中の食事を大道具さん全員に奢り、さらに、自らもスタッフに混じってセットを作るなど、周りへの気配りっぷりが尋常ではありません。
また、キアヌは質素な生活を好んでおり(度々、公園や街角でファストフードを食べているところを撮られてたりしますよね)、その膨大なギャラのほとんどを小児病院や難病の研究機関などへの寄付へ回してしまうそうです。
キアヌの気配りは、スタッフだけではありません。もちろん、ファン、というか市井の人々にも向けられています。
キアヌがお忍びで、オーストラリアのとある映画館を訪ねた時のこと。
チケットカウンターの男性は、相手がキアヌだと分かると、こっそり、スタッフ割引の料金でチケットを譲ってあげようとしました。しかし、キアヌは「僕はスタッフじゃないよ」と言い、通常料金を支払い、チケットカウンターを後にします。
それだけでも「いい人オーラ」がにじみ出でいるわけですが、すごいのはこの後!
実はキアヌの大ファンだったスタッフが、「サインを頼めばよかった……」と後悔していたところ、突如、バックドアをノックする音が聞こえました。「なんだろう?」と思いつつ扉を開けると、なんとそこにはキアヌが!!
そして彼はこう言ったのです。
「さっきは気付かなかったんだけど、もしかして、僕のファンなのかな? こんなもので悪いけど、サインしておいたよ」(原文を当たったわけではないので、キアヌの言葉には多分に私の妄想が入っています笑)
差し出されたのはアイスクリームのレシート。
そう、キアヌはスタッフへサインを渡すために、【わざわざアイスクリームを購入】し、その裏にサインをしたのです!!
カッコ良すぎませんか!? どんだけいいヤツなんだよ、キアヌ!!!
さらには、ホームレスの友人がいたり(なおかつ、一緒に道端で酒飲んでたりする笑)、車が故障してしまった一般人女性を家まで送ってあげたり、地下鉄で人に席を譲ったり(そもそも、現役バリバリの世界的大スターが地下鉄にいるなんて笑)。
ここまで来ると、もはや聖人と呼びたくなります。
他にもキアヌのいい人エピソードは探れば探るほど出てくるので、興味があれば、「キアヌ いい人」とか、「キアヌ 聖人」とかで検索してみて下さい。
レビュー(ネタバレなし)
前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、キアヌの人の良さが分かって頂けたでしょうか?
さて、そんな愛すべき俳優、キアヌが悪徳警官に挑戦したのが、今回ご紹介する『フェイクシティ/ある男のルール』です。
ちなみに、原題は『STREET KINGS』。和訳するならば、【路上の王者ども】くらいな感じでしょうか。個人的には、原題の方がしっくり来ますし、なんなら、邦題のせいで、先の展開が丸分かりになってしまった感もあります。まあ、そこら辺は好き好きかと。
フォックスサーチライト製作ということ
本作は、前々から気にはなってた作品なんですが(キアヌだし)、なんとなく、観るのが伸び伸びになっていました。
とはいえ、実際に観てみると、小粒ながらなかなか味のある映画でしたね。
で、観てみて最初に「お!」と思ったのが本作が「フォックス・サーチライト」の作品だということ。
「フォックスサーチライト」は、「20世紀フォックス」の姉妹スタジオで、比較的低予算な映画を製作しているスタジオです。
ただ、その分、外部からの余計な要望やちゃちゃが少なく、クリエイター本位の映画、もっと言えば、自主制作映画に近い形で撮れるスタジオであるとも言えます。
私もそこまで詳しいわけではないのですが、映画(に限った話ではありませんが)は予算が大きくなればなるほど、様々なスポンサーが必要になり、そして、スポンサーが加われば加わるほど、様々な要望や制約が増えていくそうです。
例えば、不要な恋愛要素を求められたり、あるいは、年齢制限を落とすために暴力描写や残酷描写をマイルドにされたりといった感じですね。
最近だと、そういった制約を嫌ったギレルモ・デル・トロ監督が、少年時代からの夢だった半魚人の映画、『シェイプ・オブ・ウォーター』を「フォックスサーチライト」で作っていましたね。
要するに、誰にも邪魔されずに、自分の好きなように作りたかったってことです。
そう考えると、極めて個人的な趣味と嗜好を煮詰めて作ったとも言える『シェイプ・オブ・ウォーター』が、アカデミー賞作品賞を受賞したというのは、本当に驚異的かつ歴史的なことだと思います。
話が逸れましたが、『フェイクシティ/ある男のルール』は、そういったインディペンデント(自主制作)的な作品だということです。
アクションが"分かっている"
本作は、アクション映画ではありません。なので、アクションシーンと呼べるようなシーンは、おそらく二つほどだったかと思います。
しかし、数は少なくとも、こだわりを感じるデキでした。
まずは、冒頭。韓国人マフィアを、キアヌが単独で強襲・制圧するシーン。
ハンドガンを正面に構え、狭い屋内で、キビキビと敵を撃ち殺していくキアヌ。隙を突かれ、撃たれるキアヌ。胸に二発、頭に一発お見舞いするキアヌ。リロードするキアヌ。
今の視点から見ると、これ、完全に『ジョン・ウィック』です(笑)
もちろん、ガン・フー(C.A.R systemという、屋内戦闘を想定した銃の扱い方と、柔術的な投げ技、組み技を合体させたジョン・ウィックオリジナルの戦闘術)は使用していませんが、志は似たものを感じます。
防弾ベスト大事。
確殺大事。
リロード大事。
っていうか、キアヌが大事。
屋内戦闘は、後半でも、もう一度出てくるのですが、そこでは暗さを利用した、フラッシュライトの使い方が印象的でした。
ああいう、プロっぽい戦い方は男の子の大好物です(笑)
なにげに、俳優陣が豪華
さらに、嬉しい驚きがありました。
本作、何気にキャストが豪華なのです。
主演のキアヌ・リーブスはもちろんのこと、『バンテージ・ポイント』や『レポゼッション・メン』、最近だと『ブラックパンサー』などに出演していて、個人的には、彼が出ていればとりあえず面白さは保証されてる的な、フォレスト・ウィテカー(バトルフィールド・アースは怖くて観ていない)。
『キャプテン・アメリカ』で大ブレイク。俺たちのキャップこと、クリス・エヴァンス。
『エクスペンダブルズ』の兵器マニア系筋肉バカ担当、テリー・クルーズ。
『プリズン・ブレイク』の正ヒロイン、スクレを演じたアマウリー・ノラスコ。
ダニエル・クレイグ版『007』で、まさかのミス・マネーペニーだった彼女、ナオミ・ハリス。
『Dr.HOUSE』のヒュー・ローリー。
とまぁ、映画、ドラマ問わず有名どころが脇からメインから目白押しです。
もちろん、いい演技アンサンブルを見せてくれますよ。
正義のための不正
さて、物語ですが、なかなかどうして皮肉がきいており、骨太な感じでした。
主人公であるラドローは、「正義のためには不正もやむなし」と考えているタイプの警官です。
容疑者を突き止めるためなら、囮捜査まがいのこともしますし、先制攻撃での射殺や、事件現場での証拠捏造も上等。
しかし、その不正がゆえに内部調査班に目をつけられてしまい、さらには、不正さえ働かなければ正当に捜査できるはずだった、ワシントン殺しの捜査も捻じ曲がった方向へ向かってしまいます。
そんな状況の中で、新たなる相棒、ポールとともに独自捜査を行う中で明らかになる真実。
そして、そこからの結末も皮肉が効いています。
まとめ
いいアクションに、いい演技。そして、皮肉の効いた脚本。
他に何かいるか?
本作は、そんな声が聞こえてきそうな、小粒でピリッな作品です。
正直なところ、キアヌは、全然悪徳警官には見えません。信念があるからこそ、不正も働くという、そんな男に見えます。でも、そこがカッコイイ(笑)
作品のレビューなのか、キアヌの紹介なのか微妙なバランスになってしまいましたが、観て損はない良作ですので、未見の方はぜひ。
ちなみに
今回の記事で触れた、映画の予算やらスポンサーの話は、映画監督であり、日本では数少ないスクリプトドクターの一人でもある、三宅隆太さんの著作、『スクリプトドクターの脚本教室』シリーズで得た知識です。
現在、初級編と中級編が出ており、三宅さん曰く、上級編も準備中だそうです。
脚本執筆のためのノウハウや心構えについての本ですが、それ以前に、読み物として非常に面白いので、映画が好きな方は楽しめると思います。
※今回ご紹介した、『フェイクシティ/ある男のルール』は、2019/10/4現在、アマゾンプライムにて無料配信中です。