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圧倒的完成度の超絶ミステリ小説『姑獲鳥の夏』

どうも、とりふぁです。

自分で思っていた以上にブログが長続きしているので、今年からは、先日のRED DEAD REDEMPTIONの記事のように、映画以外のネタにも手を出していこうと考えています。

trifa.hatenablog.com

ということで、今回は小説のご紹介!

私、本を読まないとまでは言いませんが、何せ映画とゲームが主戦場(?)なので、なかなか本まで手が回らなくてですね(^◇^;)

しかし、そんな私でも伊坂幸太郎さんの小説と、今回ご紹介する、京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズは、自分で買い集めるくらいには好きでして。

中でも、シリーズ1作目である姑獲鳥の夏は、もう何度か読み返して、本がボロボロになるくらいに好きな作品なんです。

今回は、そんな姑獲鳥の夏をご紹介します!

 

 ↑超絶ミステリ百鬼夜行シリーズ】への完璧なる入口です。

 


姑獲鳥の夏』のあらすじ

昭和二十七年、夏。

作家である関口巽は、友人の中禅寺秋彦に会うため、彼の営む古書店京極堂を目指し、うだるような暑さの中、油土塀が続く中途半端勾配の坂を歩いていた。

関口は、作家としては全く売れておらず、そのため、街で聞きつけた奇怪な噂話に尾鰭をつけてカストリ雑誌へと投稿することで糊口を凌ぐことがある。

今回、京極堂を訪れるのも、そのためだ。

聞けば、ある婦人が、【二十箇月もの長い間、妊娠し続けている】のだという。

そんなことが本当にあり得るのかどうか、あり得たとして、それは何故なのか。

そういったことを中禅寺に尋ねてみようと思い立ったのだ。

というのも、中禅寺は自らの店にある古書のほとんどを読んでしまうほどの本の虫であり、こと、奇妙な現象に関する造詣の深さには目を見張るものがあるのである。

仮に彼からの知見が得られなかったとしても、それはそれで何かしらの面白い話は聞けるだろう。

そう考えながら京極堂へ向かう関口であったが、しかし、たどり着いてみれば、京極堂の主は、関口の想像を遥かに絶する話を始めるのであった——。

「この世には不思議なことなどなにもないのだよ、関口くん」

 

 

 


レビュー

分厚さには意味がある、完璧なる超絶ミステリ

京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズといえば、【サイコロ本】という異名が有名です。

なぜそんな言われ方をするかと言えば、ページ数が辞書並みに多く、文庫版の見た目がサイコロのような正方形に見えるからです(笑)

そんなにページ数が多いというと、読むのを敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、しかし、読んでいる最中は、そのページ数の多さが全く気にならないほどにスラスラと読むことができます

決して平易な文章というわけでも、特別読みやすい文体と言うわけでもないですし、それこそ、辞書や辞典のような凄まじい量の情報が叩き込まれるのですが、しかし、そんなことは気にならないほどに面白く、そして、圧倒的に魅力的なので、恐ろしい話ですが、後半のページに入ってくると「ああ、もっと、もっと長く、分厚くしてくれ……!!」とすら思ってしまう始末(笑)

しかも、その分厚さと叩き込まれる情報量の多さが一つも無駄にならないのですから、その完成度たるや、まさに想像を絶するレベルです。

というのも、本作では、【二十箇月もの長期間にわたり妊娠し続けている妊婦】という謎と、【とある密室からの失踪事件】との謎を並行して解き明かしていくことになるのですが、その謎の答えが、反則技スレスレなほどにトリッキーでありながら、しかし、その実、この上もなく単純なため、おそらく、本作で展開する様々な会話や、京極堂(中禅寺秋彦が本名ですが、作中では屋号である京極堂と呼ばれることがほとんどです)による講義の如き様々な理論の叩き込みを読まずにその答えや結末を知ると「なんじゃそりゃ?」となること必至でしょう。

しかし、本作ではその「なんじゃそりゃ?」となりかねない結論を、読者がしっかりと納得し、受け止められるよう、多くのページ数を割いて説得、あるいは、数学的な書き方をすれば、証明してみせるのです。

そのため、結末を知ってから読み返すと、最初から最後まで、次々と現れる様々な会話や理論が、【全て完全に繋がっている】ことに気付かされます。

極端な言い方をすれば、【一行でも削ってしまうと、全てが破綻する】

それほどまでに危うい綱渡りをしつつ、しかし、見事に渡り切ってみせる。

そんな圧倒的な完成度と言ってもいいと思います。

それゆえに、本作はただのミステリーではなく、【超絶ミステリ】と呼ばれているのでしょうね。

(ちなみに、本作は実写映画版や漫画版もありますが、時間が限られる故に、カットされた場面が多く、物語としては完全に破綻してしまっています。京極堂役の堤真一さんや、京極堂の妹、敦子を演じた田中麗奈さんはピッタリなんですけどね……。対して、漫画版はかなりよく出来ていて、以後のシリーズもどんどん漫画化されています。非常に良いコミカライズだと思いますので、こちらはオススメです)

 

↑映画版。雰囲気や配役はいいんですけどね……(ただし宮迫、てめぇはダメだ) 。

 

↑コミカライズ版。非常に的確かつ完璧なコミカライズです。


憑き物落としで事件を強制終了させるという物語

前項でも触れた通り、本作は、一応、ミステリにジャンル分けされる作品です。

そして、ミステリといえば、博識で有能な探偵が登場し、その調査力や推理力を遺憾なく発揮して、事件を解決するというのが基本的な流れなわけですが、しかし、本作は少し様子が違います

というのも、本作で探偵役を務める男、【京極堂】こと中禅寺秋彦は、凡百のミステリ小説の主人公のように事件を解決したりはしないのです。

彼は、ただただ、起こった事実と起こらなかった虚構とを区別し、苛烈な現実と甘美な妄想とを解きほぐし、あるいは、定義し全ての要素を収めるべきところへと、時に無理なく、時に力技で収めてしまうため、事件を解決するというよりは、事件を強制終了させるのに近いのです。

それもそのはずで、彼はそもそも、探偵でも刑事でもありません

彼は一介の古本屋なのです。

では、そんな彼が、なぜ事件に関わり、そして、あまつさえ終わらせることになるのか。

それは、彼の裏の稼業が関係しています。

彼は古本屋を営む傍ら、裏では、陰陽師として、憑き物落としを行なっているのです。

もっとも、陰陽師だ憑き物落としだと言っても、お札を使って使い魔を召喚したり、「悪霊退散!!」と言って、鬼を斬るような派手なことはしません(必要とあらば、そうした手法を真似たりはしますが)。

先ほども書いたように、基本的には、様々な要素を解きほぐしたり定義し直したりして、その人や、その場に巣食う【憑き物=偏った考え方や、誤った常識、あるいは妄想など】を、あたかも、プログラムのバグを解消するが如くに取り除くのです。

そして、その憑き物落としにより、事件が強制終了される(事件や軋轢というものは、起こった事実を抜きにすれば、多くは、人間それぞれの頭のバグによって引き起こされるものなのです)、というのが本作、そして、【百鬼夜行シリーズ】の骨子となっています。

そしてその憑き物落としによって、バラバラに見えた事象や、不可解に思えた現象が、次々と論理的に説明され、解体され、謎がすーっと引いていき、その奥に隠されていた真実が一枚の絵として顕になっていく様は、知的快感の極地という他ありません。

しかも、そこに絡む人間模様もまた時に醜く時に美しく、非常に魅力的なのです……。

 


キャラの魅力がすごい

前段で書いた、豊富な情報量と完璧な構成や、憑き物落としによる芸術的な謎解きは本作の大きな魅力には間違いないですが、一方で、本作から始まる『百鬼夜行』シリーズのファンにとって、多くの場合、最も大きな魅力となっているのは、主人公(と呼ぶのに個人的には抵抗があるのですが笑)たる京極堂や、語り手である関口らをはじめとする、個性豊かかつ、魅力的なキャラクターではないかと私は思います。

まずは、本編の主人公である、京極堂こと、中禅寺秋彦

彼は古本屋にして陰陽師なわけですが、その他に宮司をやっていたりもします。

そんな彼は、本を読むために古本屋になったような男であり、仕入れた本は全て読んでしまう、生粋の本の虫です。

様々な本から得た、豊かな知識や深い知見を彼自身の言葉で噛み砕いて説明していく長台詞は、本シリーズの名物であり、醍醐味でもあります。

また、【親でも死んだような】とか、【親戚全部が死に絶えたような】と表現されるほどに常に不機嫌そうなその態度も魅力ですね。

続いて、本シリーズにおいて、多くの場合、語り手を務めることになる、関口巽

彼は鬱持ちの売れない小説家で、キャラが濃い【百鬼夜行シリーズ】においては、比較的一般人然とした振る舞いをしています。

しかしながら、卑屈で、後ろ向きな態度の憐れさや、毎度毎度、京極堂を言い負かそうとして、返り討ちに合う様の滑稽さなど、最も人間臭くて、愛らしいキャラクターでもあるのが魅力なんですよね。

次は、京極堂と関口の共通の知人であり、屈強を絵に描いたような刑事、木場修太郎

風貌、性格は豪快そのものといった男であり、捜査の仕方も足で稼ぎ、迫力で突き進む乱暴なタイプに見えるのですが、その実、関口に負けずとも劣らない繊細さや、京極堂と肩を張るほどの鋭い観察眼も持ち合わせており、見た目ほど単純明快な男でも、ただの脳筋でもないというのが、たまらない魅力となっています(個人的には、一番好きなキャラです)。

そして最後に紹介するのは、本作唯一の【探偵】にして、おそらく世界でも類を見ない【捜査も推理もしない探偵】である、超絶探偵、榎木津礼二郎です。

彼は、西洋彫刻に喩えられるほどに眉目秀麗な美男子でありながら、そのかなり特殊な性格から、周りからは奇人変人の類として扱われる存在です。

というのも、彼には、【他人やモノに宿る記憶が視える】という、常人ならざる特殊能力があるのですが、自分自身はその能力を特殊だともなんとも思っていない上に、その能力について一切説明せず、さらに、視た記憶を視た端から何の遠慮も脈絡もなしにベラベラしゃべりまくるという癖があるのです。

そのため、彼のその能力を知らない相手からすれば、「この人何言ってるの……?」「なんでそれを知ってるの……?!」となり、それはもうおかしな人というか、なんなら怖い人ですよね(笑)

そんな彼が、窮地の間柄である京極堂や関口、木場と交わす会話は、さながら漫才かコントのようで、非常に笑えます。

それでいて、しっかりカッコいいところもあるので、おそらく、女性人気が一番あるのは彼なんじゃないでしょうか?(知らんけど)

ここでは主に主役となる代表的なキャラクター4人を紹介しましたが、本シリーズでは、回を追うごとに魅力的なキャラクターが増え、さらに、その魅力的なキャラクター達が深掘りされていくので、一冊一冊が非常に分厚いシリーズであるにも関わらず、「彼らに会いたいなぁ」という気分で何度も読み返してしまうのです(笑)

 


まとめ

ということで、姑獲鳥の夏というか、百鬼夜行シリーズ】のご紹介でした!

個人的には、あらゆる意味で美しい、シリーズ5作目の『絡新婦の理』が一番の推しですし、最高傑作との呼び声高い魍魎の匣ももちろん最高なのですが、それもこれも、全ては本作、姑獲鳥の夏から始まりますし、個人的には、ずっと心の中でぼんやりと思っていた様々なことが、理路整然と体型だって説明されており、膝を打つことしかりで、なんなら、その後の人生観にまで影響を及ぼされた作品でもあります。

とにかく文量が多いですし、持ち運びには向かないデカさではありますが、しかし、面白さはまさに一級品です。

もしまだお読み出ない方がいれば、ぜひぜひ、手に取ってみてください。

あなたの頭の中の憑き物も、落とされてしまうかもしれませんよ?

 

 

※ちなみに、次回更新は、来週公開の最新映画の予定です。いよいよ完結するアレと言えば、ピンと来る方も多いかな……? サービスサービスゥ!!