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映画界最後の希望『TENET』

どうも、とりふぁです。

さて、今回は新型コロナウィルスが引き起こした諸々の影響により、結果として映画界最後の希望となってしまった作品『TENET』のご紹介です。

ネット上では賛否両論巻き起こっている本作ですが、私個人は本作をどう見たのかということを、今回はネタバレなしと、ネタバレ有りの2パートに分けてお話ししようかと思います。

といっても、ネタバレパートは、あくまでもオマケ程度に考えて頂ければと思います。

あ、ちなみにネタバレと言っても各所で書かれているような展開をまるっと書いたり、「あの場面は実はこうで〜」なんていうのは書きません。

そういうギミックの部分ではなく、本作の持つ構造やメッセージについて語るつもりです。

なので、ネタバレと言っても、展開やラストが読めてしまうかも……? レベルになると思います。

もちろん、どんなネタバレでも絶対に嫌だー! という方も、ネタバレなしパートは、いつも通りの書き口ですのでご安心を(笑)

ではでは、いってみよー!

 

 

 
『TENET』のあらすじ

ウクライナキエフのオペラハウスで、大規模なテロが発生し、軍による鎮圧作戦が実行される中、秘密裏に、もう一つの作戦が進行していた。

それは、CIAによるプルトニウムの奪取作戦。

その作戦のため、軍に扮してオペラハウスへ突入した【名も無き男】は、作戦実行中に、【床に空いていた弾痕が塞がる】という不可思議な現象にでくわす。

その不可思議な現象こそが、世界の命運を左右する、巨大な陰謀の始まりだった——。

「気にするな。起きたことは、仕方ない」

 

 


レビュー

濃厚ノーラン汁

本作を端的に表すとすれば、それは、【濃厚ノーラン汁】ではないでしょうか?(笑)

というのも、本作は、クリストファー・ノーラン監督がこれまで積み上げてきたものや、突き詰めてきたものを全てブチ込んで、煮詰めて煮詰めて、美味いと不味いを分かつ境界ギリギリまで煮詰めたような作品だからです。

もともと賛否が分かれがちなノーラン作品にあって、さらにギリギリを攻めているということで、そりゃもう評価が分かれるのは当然のことだと思います。

では、ノーランが積み上げてきたもの、突き詰めて来たものとは何なのでしょう?

それはズバリ、【嘘】【時間】です。

この二つをノーランが積み上げ、突き詰めているのにはいくつか理由があるとは思いますが、個人的には、この二つの要素を彼が大切にするのは、この二つの要素が、【映画】とは切っても切れない関係にあるからだと思っています。

というのも、ノンフィクションやドキュメンタリーというジャンルもありますが、基本的に映画は【誰かによって監督、編集された、誰かの嘘を描き、それを観るエンターテインメント】だからです(ちなみに、ノンフィクションでも脚色が加わるという意味では嘘ですし、ドキュメンタリーも、編集が加わるという意味では嘘です。要するに、映画で真実を取り扱うのは不可能なんですね)。

そして、同時に、映画は【時間を圧縮するあるいは、時間を引き伸ばすエンターテインメント】でもあります。

それはどういうことかと言えば、リアルタイム性を売りにする作品というのもあるにはありますが、基本的に、映画は【登場人物達が経験した数時間〜数日間、あるいは数十年間もの時間を、1時間30分〜3時間程度で描いている】または、【ほんの数分間の出来事を、視点を変えることで、数時間に渡って描いている】ということです。

つまるところ、我々鑑賞者は、【誰かの長大な時間を圧縮して共有】あるいは、【何かの瞬間を引き伸ばして共有】されているに等しいのです。

このようなことから、本来、【映画】と【嘘】そして【時間】は、切っても切れない関係にあるわけですね。

だからこそ、ノーランは、執拗なまでにこの二つをメインテーマに据えて、映画を作るのだと思います。

ちなみに、ノーランと【嘘】についてはインターステラーについてご紹介した記事でも触れていますので、そちらを読んでいただけると幸いです(今回、嘘はそこまでフィーチャーされていませんし)。

今回は、もう一つの要素である、ノーランと【時間】について触れていきます。

trifa.hatenablog.com

 

 


ノーランの描く時間

ノーラン監督は、オリジナル作品において、まず間違いなく、時間という要素に何かしらのギミックや意味を持たせています。

メメントでは、終点から始点へ向かう時間(ある意味、『TENET』のキーワードの一つでもある逆行とも言えますね)を。プレステージでは、複数の人物が一つの時間を過ごす様を。インセプションでは、極小単位で伸び縮みする時間を。そしてインターステラーでは、時間に引き裂かれる家族を描きました。

その他の作品でも、【時間】は大きな意味を持って扱われることが多いです。

前の項でも書いた通り、おそらくノーランは、【映画】というメディアが持つ【時間、あるいは時間感覚への伸縮性】というところに、非常に意識的な監督だと思われます。

このことについてノーラン自身は、ダンケルクで来日した際に、「登場人物の主観を強調するために時間を操作する」というような主旨のことを、とあるインタビューで答えています。

otocoto.jp

 

【主観を強調するために時間を操作する】というのは、要するに、【登場人物が感じている時間を表現するために、映画内で流れる時間自体を、その人物が感じている時間感覚に合わせて伸び縮みさせるということ】だと思います。

登場人物が感じている時間というのがよく分からなければ、自分自身のことに置き換えてみると分かりやすいかもしれません。

例えば、つまらない時間や、緊張状態では、時間が長く感じることがあると思いますし、その逆に、楽しい時間や、興奮状態では、時間が短く感じることがあると思います。

このように、我々の過ごす時間は、例え同じ1時間を過ごしていても、体感の長さはその時の状況や気分によって変わるのです(ちなみに、物理学的には、物体の動くスピードが速ければ速いほど、その物体にとっての時間の進みは遅くなるという理論があります)。

その体感の長さの違いこそが、登場人物の感じる時間(=時間感覚)なわけです。

その登場人物の時間感覚に、鑑賞者を強制的に巻き込ませることこそ、ノーランの狙いとすることなのでしょう。

もっと言えば、登場人物が体験していることや、その時の感情までも、そのままトレースして鑑賞者に体験させたいとまで思っているかもしれません。

だからこそ、ノーランは、極力CGを使わない実写、本物にこだわるのでしょう(登場人物にとって本物なのだから、本物を使って映さなければトレースはできないという考え方)。

そう考えると、ノーラン的な登場人物配置(主人公は基本的に無知で、物語の鍵を握る人物は基本的に嘘をついているなど)や、ストーリーテリングの仕方(序盤でルールを説明し、徐々にそのルールを応用していく。秘密や嘘の解明が次の展開に繋がるなど)にも納得がいくかもしれませんね。

ちなみに、個人的には、そうしたノーラン的バランスが最も上手く、万人向けに機能しているのはプレステージかなと思います。

登場人物の配置の仕方や、登場人物間の視点移動、必要最低限かつ必要不可欠な時間軸のシャッフルに、秘密の解明など、非常に巧みな傑作ですので、未見の方はぜひ!

そして、本作『TENET』は、そうしたノーランの【登場人物の体験を鑑賞者にトレースさせたい】という狙いが、最も強く現れた作品かなと思います。

次の項でそのことについてお話ししていきますね。

 


主人公=鑑賞者、まさに体験する映画

本作の主人公として設定されているのは、【名も無き男】です。

そして、この【名も無き男】は、右も左も分からない中、初めて体験する【時間の逆行】という現象に、時に立ち向かい、時に利用しながら、世界崩壊の危機の真っ只中へと突入していくわけです。

こうした、無知なキャラクターが、突如として大変なことに巻き込まれるという導入や、主人公に決まった名前がないという設定は、ゲームにおいてはよくあることなのですが、ゲームにおけるその狙いは、プレイヤーたる自分を、このキャラクターへ投影してくださいねということなんです。

そして、本作においてノーランがこのような導入と設定を行ったのは、おそらく、ゲームにおける狙いと同じなのではないかと私は考えました。

つまり、【主人公の活躍を観る映画】ではなく、【主人公として体験する映画】として作られたのだろうと思ったのです。

冒頭のシークエンスは、主人公の背後を追う形のカメラワークで進んでいくのですが、それも非常にゲーム的で、視覚からも【彼はあなたですよ】と言われているかのようです。

なので、本作については、物語がどうとか、仕組みがどうとか、映像がどうとかは一旦横へ置いておいて、【名も無き男】として、あるいは、彼と一緒に【時間の逆行】という現象の中へ飛び込むんだ! という、ある種のゲームやアトラクションを楽しむような気持ちで観るのがいいかもしれません(笑)

その上で、観終わってからアレコレ考えたり、調べたり、あるいは、もう一度観たりして楽しむのが、本作を一番楽しむ方法かなぁと思います。

自分はまだ1回しか観ていませんが、2回目は、まず間違いなく違った視点で楽しめるだろうというのも、ゲームにおける2週目や、隠し要素のような感じで面白いかなと思います(笑)

そして、そのような作りであるからこそ、作りそのものに乗れないと、肩透かしをくらってしまうんでしょうね(汗)

 


難解と言われる理由? 時間逆行を楽しめ!

本作が難解といわれる理由は、【時間逆行】というものの不可解さだと思います。と言っても、そこの部分も、実はすごくシンプルだと思うんですけども(ネタバレに踏み込む内容のため、詳しくはネタバレパートに書きます)、「これってどういうこと?」なんて考えながら観てしまうと難しいかもしれませんね(^◇^;)

ノーランは映画内ルールを丁寧に説明するというのも一つの作風なのですが、今回は、それとなく鑑賞ルールまで冒頭付近で示してくれているので、それに従うのが楽しむコツです。

いわく、「理解しようとするのではなく、感じるのよ」つまり、「考えるな、感じろ」です(笑)

本作を楽しむなら、特に1回目の鑑賞では、画面内のことを理解しようとしたり、うがった見方をしたりして脳みそを使うより、まずは、今目の前で起こっていることに集中して、出来るなら、なるべくそれらを記憶してみて下さい。

そのようにして観ると、序盤は大変ですが、中盤以降、だいぶスッキリと観ることができると思います。

逆に、いちいち考えながら思考を立ち止まらせてしまうと、ずっと分からないということになる……かも?

 


ノーランらしいバディ・チームのカッコよさ

とまぁ、ここまでは本作の独自性的なところにフォーカスして書いてきたのですが、そんなもん脇へ追いやってもいいくらい、本作はバディモノとしての魅力が凄いです。

ノーランって、何気にバディだったりチームを描くのが好きだと思うんですよね。

それも、それぞれが、あるいは一方がもう一方のことをよく理解していて、それが故に誰かが誰かのために献身的活躍をするみたいなのは大好物だと思います(笑)

プレステージ彼らだったり、ダークナイトシリーズのブルースとアルフレッドだったり。あるいは、インセプションでは、そういった関係性が複数登場したりしますね。

そこへきて、本作は、いよいよ本格的にバディモノです。

ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる名も無き男と、ロバート・パティンソン演じるニール無言の連携感や、お互いに絆が深まっていく様、そして、それらが一点に集中するラストの展開など、バディファン必涎のシーンが目白押しです!

特に、ロバート・パティンソンのカッコよさは、ちょっとどうかしてますね(笑)

恥ずかしながら、『トワイライト』のイメージしかなかったのですが、本作を観て、非常にいい役者さんだと考えを改めました

彼がブルース・ウェイン=バットマンを演じるザ・バットマンも楽しみになっちゃいますね(・∀・)

 


まとめ

ということで、『TENET』のご紹介でした。

今回私が語った以外にも、もちろん語るところはいくらでもある作品だと思います。

タイトルとなっている『TENET』という単語も、観終わってみればこのタイトル自体が作品そのものを端的に表していたりして、本当秀逸だと思いますし、各所で考察されるのも納得の出来ですね。

それでいて、今はまだあまり語られているのを見かけません(ギミックやストーリーの方にばかり気が取られているからかな?)が、かなり真っ当かつ熱いメッセージも込められていたところに、私個人としてはグッと来てしまいました。

とはいえ、これはネタバレパートでですね(笑)

賛否両論あるのは分かりますし、「世紀の大傑作だ!」とも私は言いませんが、今、映画館で何か一本観るなら、あるいは、久しぶりに映画館へ行くなら、私はまず間違いなく本作をお勧めします

というのも、本作は、ノーランや配給会社であるワーナー・ブラザースから、映画業界、いえ、映画館への愛を示すための一作でもあるからです。

本来、これだけの規模の予算をかけた超大作は、最も良いタイミングで公開して、資金を回収しなければならないものです。

だからこそ、各社の大作が軒並み来年へと公開延期になっているわけですからね。

しかし、ノーランとワーナーはそれをしなかった

のみならず、ノーランは本作を「絶対に配信へ回すな」と強い要望を出しました。

コロナ禍にあり、興収が見込めない中ではありますが、だからといって、映画館に大作がかからないとなると、今度は映画館自体の収入がなくなってしまいます

それにより、映画館が一つでも潰れてしまえば、映画業界全体への影響は計り知れません

確かに、今の時代、映画は家でいくらでも観ることができます。

しかしながら、映画館の大きなスクリーンで、迫力の音響で、見知らぬ誰かと時間を共有しながら映画を観るという体験は、何ものにも変えられない、特別なものです。

私なんかの弱小ブログを見に来てくださってるほどの方なら、このことは痛いほど分かってくれますよね?

ノーランとワーナーは、その特別なものこそを守りたいのです

これを愛と言わずなんと言いましょう?

そんな、映画への愛に応えるためにも、出来る限り、本作は映画館で観て欲しいなぁと思うのです

そうした意味で、本作は、映画界最後の希望なんですね。

ぜひぜひ、劇場で、ご覧下さい……!!

 


※本日ご紹介した『TENET』は、2020/9/25現在、全国の映画館で公開中です。

 


最強の映画メディア『MIHOシネマ』さんの記事はこちら!↓

mihocinema.com


ネタバレパート

ということで、ここからはネタバレしつつ、本作に隠されたテーマや、実はあの作品にそっくりだよねってことについて語っていこうと思います。

本作を観て面白かった方も、そうでなかった方も、ここから先を読んで、「そうそう!」と思っていただけたり、「そういう見方もあるか……」と思っていただければ幸いです。

では、いってみましょ!

 


ぶっちゃけ『ターミネーター

本作、とにかく「難解だー」「難解だー」と言われていますが、話だけを取り出せば、なんのことはない、みんな大好きターミネーターなんですよ。

要するに、未来で起こる大惨事を防ぐために、未来から来た兵士が、現代にいるキーパーソンを守るってお話です。

 

ターミネーター』では、人類の敵であるスカイネットが、人類側の救世主であるジョン・コナーを打倒するため、彼が生まれる前に、その母親であるサラ・コナーを殺してしまおうと考え、殺人マシンたるT-800を現代へ送り込み、それに対して人類側は、未来のジョンが、自らの母親になる現代のサラを守るために、未来の兵士であるカイル・リースを現代送り込むというお話でした。

対して『TENET』では、正体不明の未来人が、現代人を一掃するために、アルゴリズム(=現代人を皆殺しにする装置)の隠し場所と時間逆行装置を、現代人たるセイターへ託し、それに対して、その企みを挫き、人類の救世主となった未来の主人公が、現代の主人公を守るために、未来の兵士たるニールを現代へ送り込むという話でした。

確かに、『ターミネーター』に比べて、タイムスリップの仕方がややこしかったり、そもそもの時間逆行が理解しにくいといったことはありますが、このようにして観れば、物語が分からないということはないと思います。

各所で、「ノーラン版007」と言われていますし、そういう側面は確かにありますが、個人的には、「ノーラン版ターミネーターだと思いますね(笑)

 


実はシンプルな時間逆行

本作を難解にしている要素として最も大きいものは、【時間逆行】でしょう。

しかしそれは、【逆行することで何かが変わる】と思って観てしまうからだと思います。

しかし、実際は、【時間を逆行しても何も変えられない】というのが本作なのです。

例えば、空港内で逆行兵士(実は逆行してきた主人公自身)と闘うシーンは、順行側から見せられるパートと、逆行側から見せられるパートがありますが、それで何かが変わるということはありません

どちらのパートでも、逆行兵士は主人公に撃たれますし、主人公は逆行兵士を取り逃します。

ただ、どちらから観るかという視点が変わっただけなのです。

中盤のカーチェイスもそうですよね。

時間を逆行しようがしまいが、何も変わらない。そのことを意識してみると、この時間逆行も、案外シンプルに思えてくると思うのですが、どうでしょう?

というか、この映画全体がそういう作り=時間を逆行しようがしまいが、何も変わらないという物語なのです。

この部分については、次の項で詳しく解説していきますね。

 


過去改変はない。全ての展開が決まっているという物語

本作は、鑑賞者たる我々が本作を観始めたその瞬間に、実はもう物語は終わっている=全ての展開は決まっているという作品です。

どういうことかと言えば、あの冒頭のオペラハウスのシーンの裏側で、既にラストシークエンスたるスタルスク12の決戦は行われているということです。

よくあるタイムループモノで、こういった展開を行う場合、まずバッドエンド版のスタルスク12の決戦(要するに作戦が失敗したパターン。あるいは、作戦そのものがなかったというパターン)が描かれ、そこで時間逆行してグッドエンドへ導くという物語になると思います。

しかし、本作の場合は、そのバッドエンド自体、もっと言えば、あり得たかもしれない別の展開というもの自体が存在していないのです。

スタルスク12についての説明で、オペラハウスの作戦の日に、スタルスク12で爆発があったという話が挟み込まれますが、要するに、その時の爆発=ラストでニールが主人公達を救い出したあの爆発ということです。

冒頭で主人公がオペラハウスで作戦を実行しているのと同時に、時間逆行を駆使してスタルスク12へ辿り着いた主人公は、もうすでに世界を救っているのです。

そして映画自体は、その、もう既に終わっている決戦へ向けて動いていきます。

つまり、本作にバック・トゥ・ザ・フューチャーターミネーターのような過去改変はないということ。

 

そこが、本作の変わっている点です。

要するに本作は、【起きてしまった悲劇を回避するために過去改変する物語】ではなく、【既に悲劇が回避された状態を再現(あるいは確認)するために、同じ行動をなぞる】という物語なのです。

そしてその、【既に決まっている物語をなぞる】という作りは、まさに映画や小説を観たり読んだりする行為と同じ(どんなに優れた映画や小説でも、何度観ようが展開や結末は変わりませんよね? それと同じことです)なのです。

そういう意味で本作は、【映画を観るという行為の映画化】とも言えるかもしれません。

そんな実験映画のような内容を、超大作エンタメとして仕上げてしまっているのですから、本当、ノーラン恐るべしです。

 


秘められた、熱く真っ当なメッセージ

本作のメッセージ的な部分に触れている感想に、私はまだ出会っていませんし、もしかすると、多くの人が、その手前の部分で立ち止まってしまっていて、そこに辿り着けていないのかなぁと思ったりするわけなのですが、本作って、実は結構熱くて、真っ当なメッセージが込められていると思うんですよね。

それはずばり、【あなたの人生の舵を切っているのは、他でもないあなた】ということです。

それは、本作のラストで明かされる、主人公を導いていた黒幕が、実は主人公自身だったということだったり、あるいは、キャットが嫉妬した、自由な女性の正体がキャット自身だったというようなところから見て取れると思います。

加えて、本記事でも書いた【主人公=鑑賞者】ということも加味すれば、このメッセージがより強く響いてくるかなと思います。

さらに、その上でニールが下す決断を観ていくと……!!!

この【あなたの人生の舵を切っているのは、他でもないあなた】というテーマは、ノーランの他の作品でも頻繁に見受けられるものですので、複雑なギミックをとっぱらっていくと、実はノーランのメインテーマってここなのかな? とも思います。

 


おまけ

ここからは、割とどうでもいいおまけを2つだけ……(笑)

①時間逆行装置が『クォンタム・ブレイク』まんま

本作に出てくる時間逆行装置は、回転ドアと呼ばれる丸いトンネル状のものでしたが、実はこれと似たようなタイムループ装置が、『クォンタム・ブレイク』というゲーム作品に登場します。

store.steampowered.com

 

『クォンタム・ブレイク』におけるその装置は、回転ドア状のトンネルを歩いて通り抜けることで、設定された過去や未来へ行くことができるという装置でした。

そして、『クォンタム・ブレイク』では、その装置自体は時を超えることができないため、時間を移動できる範囲は、その装置が開発されてから破壊されるまでの数年間という縛りがありました。

そう考えると、『TENET』の回転ドアは、どうやって時を超えてきたのだろう……なんて考えてしまいますね(笑)

ちなみに、『クォンタム・ブレイク』は、時が崩壊し、全ての人間の時間が止まってしまうという危機を回避しようとする主人公達と、逆に、その現象を利用して選ばれた人々だけをその止まった時間の中で生活させようとする敵側との戦いが描かれます。

どことなく、『TENET』と似ていますよね(笑)

なかなか面白い作品なので、もしよかったらプレイしてみて下さい。

 


②キャットが矛盾しているというけれど

Twitterなどで、キャットが短絡的にセイターを撃ち殺すシーンについて、【子を愛する親として矛盾している】というような意見を見かけますが、個人的には、あのシーンは、【夫や子供、主人公や世界崩壊の危機など、全ての鎖を引きちぎり、一人の自由な女になったシーン】だと思っています。

その状態こそ、彼女が憧れていたものであり、そして、あのシーンにおいて彼女は、妻でも母でもない、一人の女になったのです。

だから、母としての感情からは確かに矛盾しますが、彼女の理想とする姿とはなんら矛盾していないわけです。

もっとも、私はそう解釈したというだけなので、もしかしたら実際は脚本の破綻かもしれませんが(笑)