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神の如き力を持つ者が、神の如き人格者である保証はない『THE BOYS』

どうも、とりふぁです。

普段は映画のレビューを行なっている当ブログですが、本日は、海外ドラマのレビューをしてみようと思います。

今回ご紹介するのは、アマゾンプライムでのみ配信されているオリジナルドラマ、『THE BOYS』です。

本作は、アメコミを原作としたスーパーヒーローモノでありながら、主人公はあくまでも一般人であり、スーパーヒーローは、寧ろ、倒すべき悪として描かれているのが特徴です。

 

『THE BOYS』のあらすじ

様々な特殊能力を持ったスーパーヒーロー達が存在する世界。

ヴォート社は、スーパーヒーロー達を集め、世界中の危機的状況に対応するとともに、その様子を積極的にメディア展開し、さらには、グッズ販売なども行って利益を得ていた。

中でも、最も強大な力を持つ七人のスーパーヒーローは【セブン】と呼ばれ、他のスーパーヒーロー達とは一線を画す待遇と人気を得ている。

彼らは、今日も世界中で活躍し、世界秩序や人々を守り、尊敬され、富と名声を我がものとしていた。

しかし、その一方で、彼らの戦いや日頃の行いにより、被害を受けた者達もいる。

大いなる力には、大いなる責任が伴うと人は言うが、果たして、大いなる力を持つ者全員が、その責任を負うだけの高潔な精神の持ち主なのだろうか——?

「ヤツらにお仕置きするんだ」

 

レビュー

どこかで見たことのあるスーパーヒーローチームなんだけれど……

本作に登場する最強のスーパーヒーローチーム、【セブン】ですが、おそらく、そのビジュアルを見ただけで、誰もがこう思うと思います。

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既視感あるセブンのメンバー達。

「あれ、この人達、見たことあるぞ」

そうなんです、本作の【セブン】は、どこからどう見ても元ネタがある奴ばかりで、なおかつ、それを全く隠していないのです。

身もふたもないことをいってしまえば、彼らは、はっきりとDCのスーパーヒーローチーム、ジャスティス・リーグです。

怪力や俊足を操る女性、クイーン・メイヴは、ワンダー・ウーマンですし、世界一速い男ことAトレインフラッシュ、水性生物と心を通わせることのできるディープアクアマンです。

そして、極め付けがメインビジュアルにもなっている、【セブン】のリーダーにして、神にも等しい力を持つ最強のスーパーヒーローホームランダーは、どこからどう見てもスーパーマンです。

その他の【セブン】メンバーや、それ以外のスーパーヒーロー達も、皆、どこかで一度は見たことある奴らばかりです。

このように、オマージュと言うよりも、もう完全にパクリの域に達しているスーパーヒーロー達なのですが、もちろん、これは【あえて】です。

こうすることにより、本作で描かれている、【とある問題(疑問)】本作固有のものではなく、スーパーヒーローモノ全てに起こり得る問題だと言っているのです。

スーパーヒーロー=人格者?

本作で示される【とある問題(疑問)】とは、ズバリ、【誰も止められないような力を持つスーパーヒーローが、人格者とは限らないんじゃないか?】ということです。

昨今、映画業界ではMCUの歴史的ヒットを受け、スーパーヒーロー映画が次々と生み出され、ヒットを続けています。

そして、そこに登場するヒーロー達は、様々な挫折や苦悩を味わいながらも、悪を討つために戦い続けるキャラクターとして描かれています。

もちろん、トニー・スタークのように人格に難のあるヒーローもいますし、ホーク・アイのように、悪に落ちかける者もいます。あるいは、ヴェノムデッドプールのように、倫理的にはアウトな側にいるヒーローもいます。さらに、『エイジ・オブ・ウルトロン』での戦いのように、民間人へ大きな被害を出してしまう場合もありますね。

とはいえ、そのような諸々を抱えながらも、それらのヒーロー達は、最終的には悪を討つという方向に向かっていく【正しい姿勢】を崩さないのです。

しかし、これってリアルなのでしょうか?(スーパーヒーローの実在とか、そういうリアルについては後ほど触れますが、ここでは一旦置いておきます。)

あらすじにも書いた、【大いなる力には、大いなる責任が伴う】とは、スパイダーマン座右の銘的な名セリフですが、実際問題、大いなる力を持つ全員が、その責任を果たしたがるとは限らないのでは?

というか、もし自分が、【誰にも止められないスーパーパワー】を持ったとして、それを、【世のため人のためだけのために使うと誓える人】が、果たしてどれだけいるでしょうか?

いえ、寧ろ、表面的な態度は別として、心の底では【私利私欲のために使いたい】と考える人の方が多いのでは……?

本作は、そういったところを真正面から描いた作品です。

これまでにも、ウォッチメンダークナイトトリロジーなど、こうした【善と悪の狭間】を描いてきた作品はありましたが、それらに共通していたのは、【悪に落ちた側にも悪に落ちるだけの崇高な目的があった】ということでした。

しかし、本作に登場する悪に落ちたスーパーヒーロー達には、そうしたものはありません。

単純な私利私欲。

もっと言ってしまえば、性欲自己顕示欲承認欲求といった、極めて俗っぽい、なんなら、我々普通の人間が抱く欲ゆえの悪行なのです。

通常、そうした欲ゆえの悪行には司法の光が当てられ、手痛い罰が待っています。

しかし、スーパーヒーロー達を罰することができる者は、この世に存在しないのです。

それゆえ、彼らによる被害にあった者達は、泣き寝入りするしかありません。

そして、そんな最強無敵な最低最悪の糞野郎達によって、守られ、監視されているのが本作の世界なのです。

しかも、彼らは表向き善良なヒーロー面をしており、そして、世界中のほぼ全ての人々が、その虚像を心の底から信じ込まされているのです。

これ以上のディストピアがあるでしょうか?

 


スーパーヒーローを成敗する一般人自警団の物語

そして本作では、そんなヒーロー達による被害を受けたがゆえに、彼らの真の姿と、世界の真の構造に気付いた少数の一般人、【THE BOYS】が、知恵と勇気と復讐心だけで、スーパーヒーロー達を成敗しようと暗躍するのです。

もちろん、能力差は歴然で、スーパーヒーローを一人倒すだけでも、多大な労力と時間を要します。

しかも、最終的に倒さなければならないのは、地球上のあらゆる兵器を無効化し、超音速で空を飛び、なおかつ、一瞬で大量虐殺すらできてしまうという、神にも等しい男、ホームランダーなのです。

この絶望的戦力差をいかに覆すのかが見どころの一つとなっていきます。

個人的な好みとして、圧倒的な戦力差を知恵で覆す作品が好きなのですが、そうした性癖をお持ちの方には確実に刺さる作品です!!(笑)

存在しない問題の問題化ではない

さて、ここまでで作品の面白さの部分を書き連ねてきたのですが、しかし、中には、「でもこれって、現実には存在しない問題を問題化してるだけじゃない?」と感じて、イマイチ乗り切れない方もいらっしゃると思います。

確かに、この世には、神の如き力を持つスーパーヒーローなんて存在しません

しかしながら、【神の如き力】【権力】と考えてみるとどうでしょう?

地球上のあらゆる兵器から守られるシェルターを持ち超音速で飛ぶ戦闘機を発進させる権限を持ち一瞬で大虐殺できるスイッチを持つ男が、この世にいないと言い切れるでしょうか?

あるいは、そこまで大袈裟なものでなくても、例えば、政治家警察マスコミ、あるいは、最近で言えばインフルエンサーなんかもそうかもしれませんが、力の有り様は違えど、我々のささやかな生活を、直接間接を問わずメチャクチャにすることのできる機関や人物は数多く存在しますよね。

そうした機関に属する人や、あるいは、そうした力を持つ個人が、私利私欲のために力を使わない保証や、あるいは、そうでなくとも、常に正しい判断をし続けられるという保証はどこにもないわけです。

そして事実、そうした存在からの被害を受けた個人達が力を合わせて、裁判や暴動、革命などで権力に立ち向かうというのは、歴史上何度も繰り返されてきたことであり、そして、今後も延々と繰り返されていくことです。

そうした存在のメタファーとしてスーパーヒーロー達や主人公達を見てみると、あながち、現実とはかけ離れた物語とも言い切れませんよね。

本作は、そうした社会問題を、極めてエンタメ的なアプローチで我々に提示してくれているのです。

まとめ

というわけで、『THE BOYS』のご紹介でした。

極めて社会的なテーマを、極めて俗っぽいエンタメに落とし込んでみせた本作。

個人的には、今まで観たドラマの中でもトップクラスに面白い作品です。

しかも、まだシーズン1(全8話)が配信されたばかりなので、ゲーム・オブ・スローンズ『ザ・ウォーキング・デッドのように大長編と化してしまっている名作ドラマよりも、圧倒的に観やすいというメリットもあります。

また、シーズン2は既に撮影を終えており、来年の半ば頃には配信予定という、めちゃくちゃホットな状態!

画的にグロいシーンや、性的なシーンは結構ありますので、万人向けとは言い難いですが、その分、凄まじく濃密で、凄まじく面白い作品世界がそこには広がっています。

スーパーヒーローが糞野郎というだけでも面白いのに、そんなスーパーヒーローに立ち向かうのは能力のない一般人達という、圧倒的戦力差のある頭脳戦という面白さまで搭載した『THE BOYS』

はっきり言って、隙のない快作です!!

唯一の難点は、アマゾンプライムオリジナル作品であるため、今のところ、アマゾンプライム以外での放映やソフト化が望めないところ。

とはいえ、月額500円という、映像配信サービスの中では比較的安価かつ、それだけの金額で、映像だけでなく、一部の音楽や本まで楽しめ、さらに、荷物が当日か翌日に届くお急ぎ便まで利用できるアマゾンプライムは、かなりお得だと思いますので、この機会に入会してみるのもアリだと思います。

そして、入会済みだけど『THE BOYS』はチェックしていなかったという方は、是非、一話だけでも観てみて下さい! きっと次々観てしまうと思いますよ!!

※今回ご紹介した『THE BOYS』は、2019/11/13現在、アマゾンプライムのみで無料配信中です。