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邦題で損してる?!『レッド・リーコン1942/ナチス侵攻阻止作戦』

はい、また戦争映画です。

『FURY』は、戦車兵モノという変わり種でしたが、今回は、女性部隊モノという変わり種です。しかも、WWⅡの女性部隊モノとなると、かなり珍しいのでは?

しかしながら、イロモノと思うなかれ。

邦題で損してる感がありますが、中身は非常に丁寧に作られた良作ですよ。

『レッド・リーコン1942/ナチス侵攻阻止作戦/A zori zdes』のあらすじ

第二次世界大戦下のロシア。山岳地帯に位置し、対空砲が二門あるだけという、非常にのどかな村の守備隊を指揮するヴァスコフ曹長は、部下達の非行の数々に悩まされていた。

あまりにものどか過ぎるため、兵の規律がなく、酒や女にうつつを抜かす者が後を絶たないのだ。

そこで彼は、上層部へ酒も女もやらない兵士を送ってくれと申請する。

数日後、彼の下へ送られてきたのは、女性だけの部隊だった――。

「これが、最後の戦いだ」 

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レビュー

本作、邦題こそこんな感じですが、原題は『A zori zdes』、日本語では、【ここの夜明け】となります。

原作はボリス・ワシーリエフというロシア(ソ連)の作家が書いた小説『朝焼けは静かなれど』で、1970年にテレビドラマ版が、そして、1972年には映画版が、それぞれ同じタイトルで映像化されています。そして、本作はそのリメイクという立ち位置です。

邦題だと、まんまB級戦争アクションみたいな印象ですが、原題を知ると、そんなこと全然なさそうですよね?

要するに、邦題で損してる系映画です。

極めて皮肉な政治的メッセージを込めた傑作コメディ(しかも、今のアメリカの状況を見るだに全然笑えない)、『原題:IDIOCRACY(馬鹿な権力的な意味の造語です)/邦題:26世紀青年』や、オヤジたちの青春カムバック映画として非常に秀逸な『原題:WILD HOGS(野生のイノシシという意味ですが、劇中で結成されるオヤジバイカーチームの名前です)/邦題:団塊ボーイズ』なんかも邦題で損してる系ですね。

内容と邦題が乖離している

日本の配給会社は、原題だと分かりにくい作品や、そもそも興行的にかんばしくなさそうな作品には、独自の邦題をつける傾向があります。

それが秀逸な邦題ならいいのですが、本作のように、内容と邦題のイメージがあまりにも乖離しているのは、原題や原作を知る人には届きにくくなりますし、邦題やパッケージのイメージを期待して観た人からは「イメージと違った」となって、結局、観る側は誰も得をしなくなってしまいます。

得があるとすれば、「勘違いして観る人がいて、売り上げが少しでも上がればいいなぁ」と考える、配給会社くらいなものでしょう。

もちろん、配給会社の使命は映画を多くの人に届けることです。しかし、その届き方まで考えて欲しいなぁと、一映画ファンとしてはやきもきするところです。

ちなみに、本作はタイトルやパッケージアートから想像されるような、【美人なお姉ちゃん達が大活躍してナチスをぶっ潰す!(ポロリもあるかも!)】という映画では全くありません(ポロリはあります)

なんなら、パッケージアートにある戦車も出てきません(森林地帯での極めて小規模なゲリラ戦ですし)。

どちらかと言えば、もっと文学作品よりで、なおかつ、反戦的なメッセージも受け取れる、極めて真っ当な作品です。

史実ではないけれど

さて、本作は、女性だけの部隊が駐留することになったのどかな村でのささやかな日常と、小さな決戦を描いた物語です。

「女性だけの部隊なんてあったの?」と思う方もいると思いますが、この部分は、ある種、真実です。

1942年当時、ソ連は各地の戦線で兵士を失い、人手不足に陥っていました。

そこで、戦地や軍需工場等で働いていた女性たちの中から兵士を募り、積極的に女性兵士を運用していたのです。

中でも、【夜の魔女】と呼ばれた、女性兵士だけの爆撃部隊、【第46親衛夜間爆撃航空連隊】は、夜間に爆撃で寝込みを襲う奇襲作戦により、ナチスの兵士達の多くを消耗させました。

おそらく、このように活躍した女性兵士達から着想を得て、本作の原作は書かれたのだと思います。

勇猛果敢に戦う話しではない

そんな風に、勇猛果敢に戦い、ナチスに大きな損失を与えたソ連の女性兵士達ですが、本作は彼女達の勇猛さをメインに描いた作品ではありません

そうではなく、平時および極限状態における彼女達と主人公との関係性の変化や、それぞれの人間性を丁寧に描くことで、戦争の悲惨さや理不尽さを描く作品です。

このことからも、いかに邦題やパッケージアートが、中身と乖離しているかも分かりますね。

まとめ

というわけで、リメイク版『朝焼けは静かなれど』こと、『レッド・リーコン1942/ナチス侵攻阻止作戦』のご紹介でした。

何度も言うように、邦題やパッケージアートとは真逆の作品です。

しかしながら、圧倒的に不利な状況で展開する主人公部隊の変化や成長と、戦争の理不尽さを丁寧に描いた、戦場ヒューマンドラマとしては、とても優れた作品です。

イメージに惑わされず、是非、ご鑑賞を!

※今回紹介した『レッド・リーコン1942/ナチス侵攻阻止作戦』は、2019/10/15現在、アマゾンプライムにて無料配信中です。