実録犯罪と心霊ホラーのあいだを描く禁断のホラー『呪怨/呪いの家』
どうも、とりふぁです。
Jホラー(日本的風土に根付いた、心理的恐怖感を煽るホラー映画の総称。ジャパニーズホラーともいう)の金字塔と言えば、『女優霊』や『リング』、『着信アリ』。
そして『呪怨』あたりかと思うのですが、いかがでしょう?
ちなみに、私としては圧倒的に『リング』が好みです。
というのも、個人的な好みとして、ホラー映画は、【謎が解ける快感の裏に恐怖が潜んでいる】というのが好きなんですね。
そういった意味で、『リング』は素晴らしいバランスだったと思います。
一方で、『呪怨』は、特に脈絡なく、バッタバッタと人が死ぬだけで、個人的には面白いと感じた事はありませんでした(といっても、大分前に観たきりなので、よくは覚えていないんですが……汗)。
また、とにかくバンバン怨霊が出てきて、バッタバッタと人が死ぬというその作風は、ある意味でJホラーを終わらせたとも思っているので、その点でも『呪怨』は罪深いかなぁなんて思ったりもしています。
しかし、本日ご紹介する『呪怨/呪いの家』は、そんな『呪怨』シリーズが、ジャパニーズホラーの再生に挑んだ作品なのではないかと思うほどに、なかなかどうして攻めた作品でした。
しかし、だからこそ、手放しではオススメできない作品でもあるのですが……。
では、ご紹介です!
『呪怨/呪いの家』のあらすじ
映画『呪怨』は、とある呪われた家をモデルに創作された【作品】だ。
しかし、その呪われた家で実際に起きた出来事や事件は、『呪怨』で描かれた物事よりも、はるかに恐ろしく、不可解で、そして、凄惨な出来事だった。
今日は、その【実際の出来事】について語ろうと思う。
そして、忘れないでほしい。
【呪いの家】は、実在する——。
「……ヤバイね」
レビュー
Jホラーの傑作にして、Jホラーを終わらせた作品『呪怨』
まず、『呪怨』という作品について、私なりの解釈を書いておこうと思います。
結論から言えば、『呪怨』は、確かにJホラーの傑作ではあるとは思いますが、しかし、同時に、Jホラーを終わらせた作品でもある、と私は考えています。
というのも、呪いが完全に無差別かつ即効性があることで、【暴力とは理不尽なものである】という、現実にも存在する禍々しさを上手くホラーに昇華していたという点で、傑作だと思うからです(個人的に『呪怨』は【暴力の理不尽さ】を怪談、ホラーとして昇華したものだと考えています)。
そして、呪いの顕現たる【伽椰子】と【俊雄】が、バンバン画面に登場し、ガンガン被害者を殺して回るという、いわばアッパー系の怖さを提供してみせたことで、Jホラーに新たな風を吹き込んだとも思います。
しかしながら、だからこそ、『呪怨』はJホラーを終わらせる作品にもなってしまいました。
どういうことかといえば、【伽椰子】と【俊雄】という、圧倒的なキャラクター性を持つ怨霊を全面に押し出したために、その後のJホラーは、【いかに恐ろしい怨霊で怖がらせるか】という方向へ舵を切ることになってしまったからです(その意味では、もちろん『リング』の【貞子】にも同じ罪はありますね)。
それにより、なぜJホラーが終わってしまったのかというと、それは、【Jホラーがモンスター映画化してしまった】からなんですね。
そもそも、似たジャンルである【ホラー映画】と【モンスター映画】は、その実、文法が全く逆なのです。
わかりやすくいえば、【ホラー映画の文法】は、「来るぞ……来るぞ……」で怖がらせる文法で、【モンスター映画の文法】は、「来たああああああ!」で怖がらせる文法です。
そして、ホラー映画の文法では、「来るぞ……来るぞ……」の【……】の部分をいかに引き伸ばし、そして、そこにどれだけの恐怖と緊張感を忍ばせられるかがキモであり、言ってしまえば【怨霊が出て来たら終わり】なのです(だからこそ、『リング』の貞子は最後の最後に【出て来る】わけですね)。
対して、モンスター映画の文法は、「来たああああああ!」で怖がらせるわけで、【出てこなきゃ始まらない】のです。もっと言えば、【行ったと思ったらまた来る】とかもお得意手法ですよね(笑)
このように、【怖がらせる】という目的に対し、180度違うアプローチをするのが【ホラー映画】と【モンスター映画】なのです。
そしてもちろん、Jホラーというジャンルと、そのために発展してきた様々な手法は、すべて、ホラー映画の文法に属するものです。
さて、そうした目で『呪怨』を見てみると、どうでしょう?
そこには、ふんだんにモンスター映画の文法が散りばめられているように見えるのではないでしょうか?
そう、『呪怨』が傑作たり得たのは、【ホラー映画】の枠組みの中へ、極めて巧みに【モンスター映画の文法】を盛り込んでみせたからで、いわば、たった一回きりの反則技のような映画だったからなのです(ちなみに、『リング』が大ヒットしたのも、怨霊たる貞子が、生々しい肉感を伴って【出て来る】というモンスター映画的文法を盛り込んだところにあると思います。その手法を発展拡大させたのが『呪怨』といえるかもしれませんね)。
にもかかわらず、日本のエンタメ業界(に関わらず世界中かもしれませんが)にありがちな「売れたものと同じ方向のものを作れば売れるだろう」という商業主義的な考えで、反則技的映画のまさに反則技的側面のみを模倣していった結果、ジャンルとしてのJホラーは、死に絶えました。
こういった経緯があるのが、『呪怨』というシリーズとJホラーなのです。
では、本作はどうなのでしょうか?
決定的な瞬間が訪れないという恐怖
そういった意味で本作は、『呪怨』的な【出て来る】恐怖はある程度踏襲しつつ、それでいて【決定的な瞬間は先延ばしにされる】という新たな恐怖が付加されています。
出ては来るけど、殺されない。
殺されはしないけれど、出ては来る。
何が?
そして、何のために?
そんな恐怖が、本作のメインとなる恐ろしさです。
これには舌を巻きました。
なぜなら、【出て来る】けれども【決定的な瞬間が来ない】ことで、出てきた後も【来るぞ……来るぞ……】の恐怖が持続するわけですから!
もちろん、こういった恐怖のあり方はこれまでにもありましたが、それを『呪怨』がやることに意味があると思いました。
そして同時に、【恐怖が先延ばしにされる=緊張感が持続する】という手法は、ドラマ向きだなと思いましたね。
しかも、本作の先延ばしは、10年近くの長きに渡り先延ばしにされるわけですから、これは、ドラマでなければ間延びしてしまったと思います。
『呪怨』に新たな恐怖を加えるとともに、ドラマならではの恐怖も与える。
これはなかなかに見事な手腕だと思います。
しかし本作の恐怖はこれでは終わりません。
というか、本作の本当の恐怖は、ここではないのです……。
呪怨を現実世界に持ち込むという、禁断の恐怖
本作で最も恐ろしいこと、それは、劇中に1988年から1997年までに起きた【実際の凄惨な事件】の報道が挟み込まれたり、【実際の未解決事件】がコラージュされたような凄惨な事件が起こることで、『呪怨』という作品を【現実世界に放り投げた】ことだと思います。
要するに、「お前が今観ている恐怖、呪い、そして怨念は、現実のものだぞ」と突きつけて来るわけです。
そしてその構成は、そんな狙いと同時に【平成暗黒史】の振り返りとして非常によくできています。
私は、本作の起点となる1988年に生まれ、本作で扱われた様々な凄惨な事件をリアルタイムで見聞きし、肌で感じてきた世代です。
私よりももっと下の世代には実感がないかもしれませんが、当時は、女子高生が隠れることもなく援助交際をし、テロを実行するようなカルト教団が幅を利かせ、犯罪は低年齢化し、バラバラ殺人のような猟奇的な事件が次々と起こるような時代で、【ノストラダムスの大予言】と呼ばれていた「1999年7月に世界が終わる」という馬鹿げた予言までもがリアルに感じられる、まさに、【世も末】な時代でした。
あの時代の狂った空気感が、本作には充満しています。
【令和】の世に【平成】の初期を【狂気の時代である】と定義して見せたのが本作なのであり、そしてその企みは見事に成功しています。
もちろん、今でも凶悪犯罪はなくなってはいませんし、理解不能な出来事は日々増えるばかりです。
しかしながら、本作に焼き付けられているような、【粘着質的な何か】。それこそ、【一種の呪いの如き狂気】は、平成初期ならではのものだったかと思います。
そんな狂気の時代を、我々に思い出させ、さらには、その中心に『呪怨』という呪いを仕込む。
本作の本当の恐ろしさは、そこにこそあるのです。
まとめ
というわけで、Netflixオリジナルドラマ『呪怨/呪いの家』のご紹介でした。
正直、本作の作品としての成り立ちには、疑問というか「これはちょっとどうなんだろう……」と思うところもあります。
というのも、先に触れた通り、本作には多分に【実際の事件】のエッセンスが【ほぼほぼそのまま】含まれており、しかも、その核となるのは【未解決事件】です。
確かに、もう発生から20年以上過ぎてしまっている事件ばかりですが、それでも、まだ20年です。
事件に関わられた方はご存命の方も多いでしょうし(モデルになった事件の被害者の方には、私と同世代の方もいます)、そして、そんな方たちにとって20年という時間、そしてその記憶は、生々しいものだと思います。
そんなデリケートなものを、【呪い】としてエンターテインメントにしてしまっていいものでしょうか?
そして、そこに対する関係者の許可や承諾は得ているのでしょうか?
そんなところが、非常に引っかかる一作ではあります。
しかしながら、というべきか、だからこそ、というべきかは、これもまた非常に迷うところですが、本作が、【Jホラーとしてネクストレベルな傑作】なのもまた事実。
そんなわけで、正直、私自身は本作をどう評価していいのか、まだ分かりません。
そして多分、一生、分かることはないと思います。
でも、本作が色々と考えさせられ、心の奥の奥に爪痕を残すような作品だったことは事実です。
これもまた、一種の【呪い】かもしれませんね。
ゴア描写のレベルとしては、非常に高く、しかも、そのゴア描写は、【過去、実際に起きたことである】という生々しさも加味すると、とても観れる作品ではないかもしれません。
だから、私はオススメですとは、言えません。
とても面白い作品ですが、とても生々しい作品です。
観るか観ないかは、ご自身で判断してください。
本作のモチーフになった未解決事件や、その他多くの未解決事件が、一日も早く解明されることを願っています。
※本日ご紹介した『呪怨/呪いの家』は2020/7/31現在Netflixのみにて独占配信中です。
最高の映画メディア『MIHOシネマ』さんでは、『呪怨』シリーズのあらすじを総ざらいできます(MIHOシネマさんの検索窓で「呪怨」を検索!)↓