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硬派な社会派ゾンビ映画『新感染/ファイナル・エクスプレス』

どうも、とりふぁです。

自分、ゾンビ映画って好きなんですよね。

古くは、今のゾンビ映画の基礎を作り出したジョージ・A・ロメロ御大の『ゾンビ』から、様々なゾンビ映画へのオマージュにあふれたショーン・オブ・ザ・デッド、果ては、ゾンビと人間の恋愛モノウォーム・ボディーズまで、一時期はゾンビとあらば何でも観てましたね(笑)

 

そんなゾンビ映画ですが、もともとは、人間社会のメタファーとして機能する映画が多く、娯楽性とメッセージ性のバランスが絶妙な作品が多くありましたが、最近では、【ゾンビ映画】自体がひとつのジャンルと化してしまい、ゾンビ映画のお約束や、娯楽性だけに突き抜けた作品も多くなってきていると思います。

それはそれでもちろん大好物なのですが、本日ご紹介する『新感染/ファイナル・エクスプレス』は、そんな昨今のゾンビ映画イメージを払拭する、見事な社会派作品に仕上がっていましたよ!

 

 

 

 


『新感染/ファイナル・エクスプレス』のあらすじ

やり手のファンドマネージャーとして、仕事漬けの日々を送っているソグは、娘の誕生日を迎えるものの、あまりにも家族に興味がないため、娘であるスアンが欲しいものすら分からない始末。

そこで、スアン自身に欲しいものを尋ねてみるが、スアンから帰ってきた返事は、「母親のもとへ行きたい」というものだった。

妻と別居中であるソグは、その言葉を遮るが、スアンは、たとえ一人でも行くとゴネる。

あまりのスアンの態度に折れたソグは、早朝出発の高速鉄道KTXに乗り、妻の住む釜山へ向かうことにした。

しかし、そんな彼らの事情とは関係のないところで、韓国全土を揺るがす大災害が進行……いや、侵攻していた——

「父親ってのは、例え反対されても、犠牲になるもんなのさ」

 

 


レビュー

新感覚にして原点回帰な社会派ゾンビ映画

本作は、ほぼその全てが高速鉄道KTXの中だけで展開する、ワンシチュエーションゾンビ映画です。

ゾンビモノでワンシチュエーションといえば、もちろん、ロメロの『ゾンビ』や、そのリメイク作にして、【走るゾンビ】を生み出したザック・スナイダードーン・オブ・ザ・デッド、はたまた、スペイン産ゾンビ映画にして、POV(Point Of View:固定視点映画のこと。ビデオ撮影された映像という体のものが多い)映画の傑作でもある『.REC』などもありますが、それが走る列車の中というのは、ありそうでなかった舞台設定ですね。

 

また、銃社会ではない韓国の、しかも一般市民達の話しということで、ゾンビに対する対抗手段が近接武器のみというのも、なかなか新しいと思いました。

しかしながら、本作はそうした新感覚な要素を取り入れつつも、描かれる物語やテーマは非常に社会派なもので、それは寧ろ、ゾンビ映画の原点に回帰するような内容になっていたと思います。

というのも、冒頭でも触れた通り、近年は【ゾンビ映画】があまりにも一つのジャンルとして定着してしまったため、【何かを語るためにゾンビ映画というフォーマットを使う】のではなく、ゾンビ映画というフォーマットの上で何かを語る】あるいは、ゾンビ映画というフォーマットそのものを楽しむ】という作品が多くなってきていたように思うのです。

冒頭で挙げた2作のみならず、ゾンビランドシリーズや、『アナと世界の終わり』、あるいは高慢と偏見とゾンビなどはその典型でしょう。

 

また、ゾンビ映画としては破格の規模とバジェットで作られた『ワールドウォーZ』や、世界中で大ヒットしたポストアポカリプスドラマの金字塔ウォーキング・デッドもその系統だと思います。

 

【語りたいことがあるがゆえのゾンビ】ではなく、【ゾンビを使って語りたいことがある】というスタンスですね。

しかし、本作は、明らかに前者のスタンスで作られていると私は考えています。

それこそが、本作の原点回帰的部分ですね。

では、何が社会派なのでしょうか。

  


韓国近現代史の闇を描くために現れるゾンビ達

本作で描かれるゾンビや、そこで展開する物語は、明らかに韓国近現代史の闇を表しています。

そして、それは、ゾンビモノをやるからそういうテーマにしたというよりは、寧ろ、そうしたものを描くためにゾンビを利用したと考える方が自然です。

では、本作で表現されている韓国近現代史の闇とは何なのでしょうか。

まず、ゾンビですが、本作のゾンビ達は、韓国の北側、ソウル近郊で発生し、人間達へ次々に感染を拡大させながら、急激な勢いで南下していきます

しかしながら、韓国の南側の大都市、釜山はそんな大感染を免れ、最終防衛ラインとなっており、主人公を含むKTX内の人々は、釜山を目指して突っ走ることとなります。

このことが表しているのは、つまり【北から現れ、急激に迫りくる元同族】——北朝鮮こと、朝鮮民主主義人民共和国の脅威だと思われます。

事実、(今なお続いている)朝鮮戦争において、北朝鮮軍は本作の発端であるソウルを占拠し、本作の目的地である釜山を目指して侵攻してきました。

しかし、韓国は釜山に最終防衛ラインを築き、辛くもソウル奪還を果たしたのです。

そしてそれ以降、韓国と北朝鮮は、かの有名な軍事境界線北緯38度線で分断され続けており、そして、その分断がいつ解かれるのか、あるいは、再び戦火が襲ってくるのかというのは、多かれ少なかれ、韓国に住む人々の心の隅に常にある問題意識になっていると思います。

本作のゾンビは、そんな【北から迫りくる同族の脅威】のモチーフとして扱われていると見て間違いはないでしょう。

 


韓国の人々に暗い影を落としたセウォル号沈没事故

本作では、他の名作ゾンビ映画の例に漏れず、段々と【最も恐ろしいのは人間】という展開になっていきます。

多くの作品では、ゾンビパニックにより精神に異常をきたして狂人となる者がいたり、ゾンビとなった家族や友人を守るために人々と敵対する者が出てきたり、あるいは、自分だけが生き延びるために極めて利己的な行動をする人物が出てきたりします。

それらの人物は、大抵、物語を大きく動かした後に死亡するのがゾンビ映画の流れなわけですが、本作におけるこういう人物は、その限りではありません

その理由は、おそらく、本作のモチーフの一つにセウォル号沈没事故】があるからだと私は考えています。

セウォル号沈没事故は、2014年4月に起きた海難事故で、死者数としては、現状、韓国史上最悪の事故になっています。

この事故は、事故そのものよりも、事故発生後に【やるべき人々が、自らを優先するあまりに、やるべきことをやらなかった】という、まさに利己心が生んだ悲劇として語られるものになってしまいました。

というのも、事故が発生した際、本来なら真っ先に乗客を避難、あるいは救助すべき乗組員達が、我先にと専用通路で脱出したために、乗客達は沈みゆく船上で行き場をなくし、結果として多くの死者を出してしまったというなもさることながら、救助を行うべき韓国政府すらも、「事態は好転している」というような曖昧な情報を流すだけで、実際には、救助された人数を間違ったり、それどころか、救助のための人員が小規模過ぎたなど、かなり不手際の目立つ有様だったのです。

それにより、本来、助かるはずだった人々の多くが犠牲になってしまったのは、想像に難くありません。

のみならず、この船には修学旅行中の300人を超す高校生達が乗り合わせており、多くの若者までもがその命を奪われました

その亡くなった高校生の規模は、この事故があったために、韓国におけるこの年の10代の死亡理由の1位が運輸事故になったといえば伝わるでしょうか。

本作では、そんなセウォル号沈没事故で見られたような様々な要素が、あちこちに散りばめられています

それゆえ、韓国に住む人々は、本作で起こる利己心ゆえの悲劇や惨劇を、非常に生々しく観たことでしょう

 


韓国映画らしいハイクオリティなエンタメ作品

とはいえ、そうした背景考察をせずとも、文句なしに面白いというのも本作の魅力です。

逃げ場がなく、超高速で走る密室内で繰り広げられる濃密なサバイバルに、人間同士の醜い争いその中でも輝く人間としての尊さなど、本作は、アクション、サスペンス、ドラマのバランスが、非常に高い次元でまとまっています

エンタメとして純映画的な楽しみを惜しげもなく提供してくれるあたりは、もう、韓国映画の面目躍如ですね!

なかでも、やはりコン・ユ演じる、合理主義かつ利己主義の権化とも言えるダメ親父が、マ・ドンソク演じる、豪快過ぎる快男児を見習い、次第に成長していく過程と、その先に待つ展開は、熱く、そして、泣けます

その他にも、幼馴染み同士と思しき高校生カップル(彼女役の、アン・ソヒちゃんが反則級の可愛さ!)のドラマに甘酸っぱい気持ちになったり、仲良し老姉妹にホロリとさせられたり、群像劇としても良くできています。

本当、韓国映画レベル高いわ……(笑)


まとめ

というわけで、『新感染/ファイナル・エクスプレス』のご紹介でした。

ちょっとあんまりな邦題と、ゾンビ映画というジャンル的な部分で、敬遠されてしまいそうな作品だとは思いますが、どうしてどうして、【映画として非常に優れた作品】でした。

本記事で語ったような韓国の事情を知らず、頭を空っぽにしても楽しめる本作ではありますが、そこら辺の事情を知った上で観ると、韓国の人々が心のどこかで切実に感じている恐怖や不安も見えて、また違った印象になると思います。

エンタメとしても、社会派としても観れる

韓国映画界は、こういったバランスの作品に強いですね。

近々、続編も公開になるので、ぜひともこのタイミングで観てみてください!

 

本作の続編『PENINSULA(邦題未定)』の予告です↓

 

 

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