trifa’s grind house.

心に残った映画や海外ドラマの備忘録です。Amazonプライムが主になるかと。

チープという新しさ『キラー・メイズ』

どうも、とりふぁです。

私が映画を観る際の価値観の一つに、「今まで目にしたことのない【何か】を見せてくれれば大勝利」というのがあります。

本ブログで扱った中で言うと、生涯ベスト枠で語ったデスペラードの馬鹿馬鹿しくもカッコいい武器であったり、スイス・アーミー・マンの死体を道具にするというアイディアそのものだったり。

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あるいは、カートゥーン的表現を見事に実写化してみせた、ジム・キャリー主演の『マスク』や、こちらのホラー映画知識を試してくる『キャビン』なんかも最高ですよね。

そんな風に、それまで見たことがないものをたった一つでも見せてくれれば、私はその映画が大好きになっちゃうのです(笑)

 

今回分かったんですけど、『マスク』って国内版Blu-ray出てないんですね……もったいない。

 

とはいえ、色々な映画を観ていると、悲しいかな、段々とそういう経験も少なくなってくるのは確か。

そりゃそうです。

経験を重ねれば重ねるほど、未見や未知は減るわけですからね(^◇^;)

でも、だからこそ、たくさんの経験を経た上でも「新しい!」と思わせてくれる作品は、大切な一本にもなるわけで……。

本日ご紹介する『キラー・メイズ』は、その点でまさに【当たり】な一本でした。

 

 

 


『キラー・メイズ』のあらすじ

芸術家を標榜しながら、自らの作品を完成させたことがなく、かと言って、芸術家を諦めて他の道へ進むという決心もできない男、デイヴ

ある日、彼はそんな鬱屈を晴らすべく、ダンボールを使って【迷路】を作り始める。

数日後。

旅行に出ていた彼の恋人、アニーは、【迷路】で遭難したという彼と、彼の作った段ボール製の迷路を目にする。

あまりの光景に呆れかえるアニーであったが、いざ【迷路】の中へ足を踏み入れると、そこは、見た目からは想像すらつかない規模と複雑さ、そして、残虐なトラップが支配する空間が広がっていた——。

「僕は何も完成させたことがない。だから、これは完成させたいんだ!!」

 


レビュー

全てが紙で作られた驚異の空間

本作でまず目を引くのが……というか、文字通り本作を構成する全てとも言えるのが、セットから演出から、果ては登場人物までを構成する大量の段ボール(をはじめとする各種紙類)です。

その他の部分、例えば誰かの精神世界へと深く入り込んでいくというのは、『シャイニング』インセプションパーフェクト・ブルーなどなどの名作達や、それが精神世界であるということ自体がネタバレになってしまう、あんな作品やこんな作品などで散々使い古されてきたネタですし、殺人トラップ盛り盛りの空間というのも『キューブ』『ソウ』を始めとして、一時期、雨後の筍のように乱立したワンシチュエーションスリラー等で、嫌というほど描かれてきたものです。

 

しかしながら、そうした、何度も何度も擦られてきたネタを、「全部、段ボールで表現しちゃおう!」というのが本作の凄いところ。

そして、そんなアイディア一発を、真剣に作り上げ、最初から最後までやり切ってみせたところこそが、本作の白眉。

つまるところ、本作は【見所だけで出来た作品】なのです!

なおかつ、その見せ方も独創的で、段ボールでセットを組み上げただけでなく、飛び散る血しぶきや臓物まで紙製だったり、あるいは、トリックアート的空間が登場したりと、観ているだけで楽しいつくりになっています。

すげぇ、こいつはすげぇよ、お袋さん!!(誰だ

 


一度ならず創作を志した者には伝わる……はず?

そんな凄い作品なのですが、AmazonのレビューやFilmarksなどを覗くと、意外や意外(?)結構、評価が低めなのです。

そして、評価が低いレビューの中に散見されるのが「意味がわからない」という言葉です。

私個人としては、そんなことは全くなく、寧ろ、伝えたいメッセージに対して、ストレート過ぎるくらいストレートな作品だと思ったくらいなのですが……。

実際、【それ】が伝わった方のレビューを読むと、なかなかいい評価をつけている方が多いです。

そんなわけで、【すごくいい!!】というレビューと【意味不明!!】というレビューとが混ざり合った結果、評価が微妙な位置に来ているのかなと思います。

要は、良い評価と悪い評価の間に大きな隔たりがあるわけですが、多分、この隔たりの正体は、【創作を志したことがあるかないか】だと思います。

というのも、この作品のメッセージは、まさに【創作を志した人】へ向けたものであり、それも、【最終的には創作を諦めた人(あるいは、諦めようと考えたことがある人)】がコアとなっているからなのです。

本作の主人公デイヴは、あらすじにも書いた通り、芸術家を名乗りながら、何も完成させたことがない人物です。

そして、そんな彼が「何かを完成させなければならない!」という、呪いにも似た強迫観念の末に生み出したのが、本作の舞台となる【未完成の迷路】であり、そして主人公は、その迷路を完成させるべく、逆に、どんどん迷路へと迷い込んでいってしまったのです。

これ、素っ頓狂な設定とビジュアルで描かれてますが、つまりは、芸術家としての自信だけはあって、実績のない人物が、なんとか作品=実績を残そうともがき苦しむお話しなんですよね。

そういう経験、皆さんにはありませんか?

 


私にはあります。

 


というか、現在進行形です。

 


なんなら、デイヴ=私と書いてもいいかもしれません(苦笑)

 


私、中学の頃に課題でちょっとした短編小説を書いたことがあって、それを国語の先生に褒められたんですよ。

 


「とりふぁは小説家になれる」

 


って。

その言葉がすごく嬉しくて、それ以来、心の隅にその言葉は、それこそ呪いのようにずっとあって、そして、いつしかそれは【私は小説家にならねばならない】という強迫観念になっていったのです。

そして、高校生の頃にやっていたブログで『飛べない天使』という北欧神話を土台にしたファンタジー小説を連載したり、noteという創作家用SNSで、『The three dogs dancing on a die』というポストアポカリプス小説を書いたり、あるいは、『Offline hearts.』というサイバーパンク風味な青春モノを書いたりもしました。

note.com

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しかし、それらはどれも【未完】です。

その他にも物語はいくつか頭の中にあって、いつでも書き出せるように、アイディアはどんどん詰められています

しかし、いざ書き出すと、どこかで必ず止まってしまう

大枠も詳細も描けるのに、それらを紡ぐことができないんですね(^◇^;)

そうしていくうちに、作品という名の迷路ばかりが際限なく大きくなっていく

しかも、私の場合、同じくnoteにて行われた有志による短編小説コンクールにて、『夢の守り人』という短編が【読者賞】を獲得したという些細な成功体験=実績があることも災いして、「才能はきっとある。だから今は、いつか小説家になるまでの腰掛け」なんて思う日々が続いてしまっているのです。

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そんな私の、そして、きっと多くの【自称創作家】が経験してきた、あるいは、現在進行形で経験している【挫折一歩手前で保留にしている苦悩】を端的に描き出したのが本作なのです。

それはきっと、側から見れば大したことない、寧ろ「なんじゃそりゃ」な悩みなのですが、本人からすると、とんでもない悩みなのです。

そんな部分も、本作ではきっちり描かれています。

ワンシチュエーションスリラーのパロディという形をとり、ナンセンスコメディ風な味付けで観やすくされてはいますが、そこで描かれている悩みは、当の本人からすれば、とてもとても見せられるものでも見れるものでもありません

しかし、そんなデリケートな悩みを、笑いながら客観視できるというのは、本作の存在意義として、とても大きいものだと思います。

 


まとめ

というわけで、『キラー・メイズ』のご紹介でした。

ほぼ全編、全シチュエーションを段ボールで表現したという、そのビジュアルイメージだけでも一見の価値ありな本作ですが、個人的には、それ以上に、私みたいな【こじらせちゃってる自称創作家】にこそ、観てもらいたい作品だと思います。

肥大化する苦悩に、デイヴはどう決着をつけるのか、それはぜひ、自分の目でお確かめください!

さて、私はどう決着をつけようかね……(^▽^;)

 


※今回ご紹介した『キラー・メイズ』は2020/5/31現在、アマゾンプライムビデオにて無料配信中です。