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銃社会アメリカ『デス・ウィッシュ』

先日、GEOが準新作80円キャンペーンをやっていたので、『ボーダーライン/ソルジャーズデイ』、『キャプテン・マーベル』、『ボヘミアン・ラプソディ、そして、本作デス・ウィッシュを借りてきました。

このラインナップですが、ぶっちゃけ、キャプテン・マーベル』以外は全部旧作でしたっていうね。

それじゃ、普通の日に行っても変わらないじゃないっていうね(汗)

久々にレンタル店へ行くと、観たかったアレもコレも旧作になってて、結構迷っちゃいますね。しばらく通ってしまいそう(笑)

というわけで、今回はデス・ウィッシュのご紹介です。

 

デス・ウィッシュ/DEATH WISH』のあらすじ

犯罪の横行するシカゴ。患者の善悪にかかわらず、誰であっても治療を施す腕利きの外科医、ポール・カージーは、妻と娘と共に、三人で仲睦まじく暮らしていた。

しかし、そんなある日、ポールが留守にしている間に強盗が家へ押し入り、妻が射殺され、娘も意識不明の重体となってしまう。

ポール自身も捜査に協力しようとするものの、出来ることはなく、そして、頻発する犯罪に埋もれ、捜査は遅々として進まない。

悲嘆に暮れる日々の中、ふとしたきっかけで、ポールは一挺の拳銃を手に入れるのであった——。

「今は、お前の専門医だ」

 


レビュー

今回ご紹介する『デス・ウィッシュ』ですが、原作はブライアン・ガーフィールドの小説狼よさらばであり、さらに本作はそれを原作とした1974年公開の同名映画のリメイクでもあります。

と言っても、主人公の名前や、家族を襲われた男が、夜な夜な街で自警活動を始めるという筋書き以外の部分は、現代風にアレンジされており、ほとんど原型を留めていないので、もはや新作と言ってもいいかもしれません。

主演は我らがブルース・ウィリスで、監督は、クェンティン・タランティーノ監督の盟友でもあり、残虐描写に定評のある、イーライ・ロスです(※1)。

 
※1: 当ブログ的には、直接な監督作ではないものの、彼が原案と主演を務めた『アフターショック』を扱っていますね

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自警団モノというジャンル

さて、本作ですが、自警団モノと言われるジャンルに属する作品です。

先に挙げた狼よさらばを元祖とするアクション映画のサブジャンルで、内容としては、主人公の家族や恋人、あるいは自分自身が何らかの犯罪被害を受け、それをきっかけに、武装し、街に蔓延る犯罪を暴力的な手段で勝手に取り締まるというようなものです。

作品としては、狼よさらばを皮切りとする、チャールズ・ブロンソン主演の一連のシリーズや、『ウォーキング・デッドダリル役でお馴染み、ノーマン・リーダス出世作であり、一部でカルト的人気を誇る『処刑人』シリーズ。また、本作と同じくブライアン・ガーフィールドによる原作をケヴィン・ベーコン主演、ジェームズ・ワン監督で映画化した狼の死刑宣告、あるいは、バットマンのシリーズ(特にクリストファー・ノーラン三部作)も、大枠では自警団モノに当たります。

要するに、法で裁けぬ悪を裁く! というジャンルですね。

個人的には、悲惨な事件を皮切りに、主人公が悪人どもを次々と始末していくという作りのため、一定の面白さと爽快感が担保されているジャンルだと思います。

であると同時に、法ではなく、【人が悪を裁く】という物語であるため、半ば必然的に、社会派なメッセージを盛り込んだ作品になることも多いジャンルでもあります。

本作はそこまで社会派という作りではありませんが、それでも、「警察は事後にしか動けない」ことや、「殺人者が英雄として祭り上げられていくことを認めていいのか」というような問題は提起されています。

 

銃と自衛とアメリカと

本作の主人公、ポールは、この手のジャンルのお決まりとして、銃を手に、街の悪党どもを始末して回ります。

これは、簡単な審査(本作でも出てきます)さえ通れば、ホームセンターなどでも比較的手軽に銃を購入できてしまうというアメリカならではの展開なわけですが、一方で、この手軽さゆえに、銃を使った犯罪無差別殺人、あるいは、予期せぬ暴発事故などが頻発しているというのも、アメリカならではです。

我々日本人の感覚としては、そんな危ないもの、さっさと規制すればいいのにと思うかもしれませんが、ことはそんなに簡単ではありません。

なぜなら、銃による武装と、それによる自衛というのは、アメリカ建国と切っても切れない関係だからです。

そもそもアメリカは、ヨーロッパより移民してきたプロテスタント(宗教改革によって生まれた、キリスト教の一派)によって作られた国です。

そして、当時のプロテスタントとは、武装することにより権利を勝ち取り、また、武装することによってネイティブ・アメリカン達を侵略したことで、アメリカという国を築いた人々なのです。

だからこそ、アメリカの憲法修正第二条「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」という文言があるわけです(※2)

つまり、銃による武装は、憲法という最高法規に明記された、侵してはならない国民の権利なわけですね。

そのため、銃による悲惨な事件が起こる度に、全米ライフル協会あたりが、「被害者が銃で武装していれば悲劇は防げたはずだ」なんていうトンデモ理論を大声で繰り出せるわけです。

そして、自警団モノというジャンルは、ここらへんの事情をエンターテインメントという形を借りて描くことができるのです。

だからこそ、エンタメ性と社会性のバランスのとれた、名作・傑作が多いわけですね。

銃で身を守るべきなのか、それとも、銃そのものをなくすべきなのか。

これは、銃社会アメリカにとって、解決できない永遠のテーマであり、病理でしょうね。

※2:詳しく知りたい方は、アメリカ 銃 建国」とか、アメリカ 銃 憲法あたりで検索してみてください。

本作の魅力

ここまでは、本作の成り立ちや、本作の裏に隠された問題をざっくりと解説してきたわけですが、ここからは本作の魅力について見ていこうとおもいます。

細かな演出が巧み

本作で目を見張るのは、やはり、イーライ・ロス監督による巧みな演出の数々でしょう。

それによって、言葉ではなく、画によって、今後の展開を示唆したり、主人公や事件の状況を説明したり、不穏さを煽ったりといった諸々の要素がスムーズに観客に伝わるようになっています。

特に、序盤でポールの家族が襲われるシーンのホラー的とも言える不穏さは、地味ながら本作の白眉の一つですし、また、中盤で、警察の捜査が進まない理由を一瞬でサッと示す手腕の見事さには舌を巻きます。

そのような細かな演出の巧みさによって、我々は物語に集中することができるのです。

観客に雑念を抱かせない。これは、名監督のみがなせる技ですね。

ここら辺の見事さは、映画や舞台の監督志望の方にはとても参考になるあたりかもしれません。

現代的なアプローチ

次に注目したのが、YouTube(的な動画サイト)を使った現代的なアプローチの数々です。

例えば、それまで銃を手にしたことのなかった主人公が、YouTubeの解説動画を見ながら銃の扱いを覚えていく描写非常にフレッシュでした(※3)し、あるいは、主人公の犯行を撮影した動画がYouTubeにアップされて拡散し、それが世論を形成していく過程や、その動画を観た主人公の反応なんかも、キック・アス(こちらも自警団モノですね)等でも扱われていたアプローチとはいえ、SNS時代の感覚を取り入れた現代的アプローチで、興味深く見てしまいました。


※3:狼の死刑宣告では、説明書を読みながら銃の扱いを習得する主人公が描かれていましたが、そのアップデート版としても面白いですね。また、銃を使ったフレッシュな描写と言えば、本作で初めて主人公が殺人を犯した際に負う、ある怪我も、今まで見たことのないフレッシュな描写であり、かつ、とてもリアルな描写でした。

暴力の魅せ方が上手い

最後の注目ポイントは、やはり、自警団モノの肝であり、そして、イーライ・ロス監督が最も得意とする部分。つまり、暴力についてです。

スタイリッシュな描写があったり、見たこともないアクションが出て来るというわけではないのですが、本作の暴力描写は、一つ一つ工夫があり、観ていて飽きません。

特に最高だったのは、主人公のとある犯行の魅せ方と、途中で挟まれる、医者ならではの拷問シーンです。

前者は、ワンカットで唐突に暴力が発動するため、実際の事件を目撃してしまったかのようなショックを感じましたし、後者は、医者だからこそできる、医学的知識に基づく拷問という、効果的かつ恐ろしい暴力が見ものです。

もちろん、数は少ないながら、イーライ監督らしい、強烈なゴア描写もありますよ(笑)

まとめ

デス・ウィッシュのご紹介でした。

個人的には、自警団モノは、スカッとする上に、社会問題についても考えさせられるという意味で大好きなジャンルなので、非常に楽しく観ることができました。

歴史に残る傑作というわけではないですが、サクッと観れてスカッとできる良作だと思います。

その上で、アメリカと銃、そして、自衛について考えるもよし、考えずともよしという懐の深さもあるので、興味を持たれた方は、是非ともご覧ください!