容赦なく主人公を追い詰める……『真夜中のゆりかご』
どうも、とりふぁです。
今回は、久々に非英語圏の作品をご紹介します。
個人的に、今回ご紹介するような非英語圏の作品を気軽に探して観れるというのが、サブスクリプション(定額制)サービスの醍醐味だと思っています。
非英語圏の作品は、私のように地方に住んでいる者だと、上映自体されていなかったりしますし、レンタル屋で探すのも難しかったりしますからね(汗)
その点、サブスクリプションサービスだと、配信開始された作品や、最近観た作品に類似したものなどを自動でオススメしてくれて、その場でレビューや予告編まで見れたりするので、非英語圏の作品や、小粒な作品と出会うのにうってつけなのです。
さて、今回ご紹介するのは、北欧はデンマークのスリラー映画、『真夜中のゆりかご』です。
妻がタイトルに惹かれ、一緒に予告を見てみたところ「え? なんか面白そう……?」となり、事前情報ほぼなしで観たのですが、なかなかどうして(こういう言い方していいか分かりませんが)面白い作品でした!
『真夜中のゆりかご』のあらすじ
刑事のアンドレアスは、愛する妻と生まれたばかりの息子に囲まれ、幸せに生活する良き夫であり、良き父だった。
そんな彼は、ある日、家庭内暴力が行われているのではないかとの通報を受け、相棒と共に、とあるアパートへと事実確認に向かう。
彼らは、そこで、薬物依存症のカップルと、二人の間に生まれ、育児放棄すれすれの糞尿まみれの赤ん坊に出会う。
目を覆いたくなるような悲劇を目の当たりにしたアンドレアスは、ショックを受けつつも、自らの家庭の幸福に改めて感謝する。
しかし、そんな中、彼の息子が突如として命を落としてしまう。
あまりのことに、失意のドン底に陥るアンドレアスと、錯乱し、「私も死ぬ」と泣き喚く妻。
そんな妻をなだめるために、アンドレアスは、あの赤ん坊と我が子をすり替えることを思いつく——。
「あれは私の子じゃない! 私の子は死んでない!!」
レビュー
北欧という土地
冒頭でも触れた通り、本作は北欧、デンマークの作品です。
デンマーク、そして北欧と言えば、厳しくも美しい自然に囲まれた、世界随一の福祉国家の集合体として名高い土地であり、国民の幸福度が非常に高いことでも有名です。
事実、とある調査では、国民の実に95%が、「支援が必要になった際に誰かに頼ることができる」と考えているという結果も出ています。
自殺大国である我が国と比べると、なんとも豊かなことだなぁと思ったりするわけですが、一方で、首都であるコペンハーゲンでは、若者による薬物依存や、ギャング同士の抗争が社会問題になっていたり、なかなかコアなメタルバンドが多数存在し、一定の支持を集めているという、エクストリームな一面も持ち合わせています(※)。
これは憶測に過ぎないのですが、おそらく、北欧という土地、環境は、確かに美しく、また、政治的にも非常に優れているのだとは思うのですが、同時にそれは、【退屈という毒】を育んでいるのかもしれないなぁと思ったりします。
北欧特有の静謐な空気感や、容赦なく美しい風景は、ひとときの旅行で訪れるなら素晴らしいのでしょうが、そこで暮らすとなると、ジワジワと人を壊すのかもしれません。
例えば、かの有名なムンクの『叫び』は、そんな北欧の静寂という名の叫び声に耳を塞ぐ人物が描かれています(アレ、叫び声を上げている人の絵ではなくて、自然界からの叫び声に耳を閉ざそうとする人の絵なんですよね)し、私の大好きな北海道ローカルのバラエティ番組『水曜どうでしょう』でも、北欧編では、俳優の大泉洋さんを始め、出演者達が次々と壊れていくという、なかなかに異常な様子を観ることができます。
事実、世界中を様々な過酷な条件のもとで旅してきた彼らが、「何があったわけでもないけど、一番辛かった」というのが北欧の旅でした。
蔓延する退屈は、人を毒するのです。
その毒になるほどの退屈へのカウンターとして、若者達はエクストリームなものを求めるのではないかなぁと思います。
何があるわけでもないけれど、逃げ場のない空気感に支配されている。
それが、北欧という土地なのかもしれません。
そして、本作は、そうした毒に冒された人々の物語だと私は感じました。
※違法薬物やギャングとメタルを同一視する意図は全くありません。違法薬物やギャングは他人や自らを破壊する恐れのある犯罪ですが、メタルはあくまでも音楽ジャンルの一つであり、犯罪を誘発するものではありません。なんなら、私も大好きです(笑)ここでは、様々なストレスに対するエクストリーム性を含む解消法としての側面で列挙しています。メタル、最高!!北欧出身だと、(解散してしまいましたが)『SISTER SIN』とか大好きです。
どこへ向かう?! 予測不能な物語
さて、本作はあらすじにも書いた通り、「不幸にも自分の子供が死んでしまった夫が、妻のために子供をすり替える」ところから物語が動き出します。
私は、この時点で、 既に「そんなことしても、奥さん喜ばないんじゃ……ってか、何か意味あるかそれ?」という感想を抱きました。
これは悪い意味ではありません。
こういう、「なんじゃそりゃ」を楽しむのも映画の醍醐味の一つですから、私個人としては、こういう「なんじゃそりゃ」から始まる物語は、結構大好物です(笑)
さらに本作は「なんじゃそりゃ」という展開から始まったのみならず、様々な登場人物達のそれぞれの思惑が暴走し、どんどん、物語が予測不能な方向へ突っ走っていくのです。
「こうなるなら、こうかな?」と想像を働かせる側から、登場人物達の予想外の行動によって、自分の頭の中で想像した物語がガタガタと崩れ落ちていく快感。
もうこうなると、我々鑑賞者は、その予測不能な流れに身を任せるしかありませんし、それこそが本作の面白さだと思います。
主人公を追い詰める脚本は、優れた脚本
私の大好きな本に、映画監督で脚本家で、さらに日本では数少ない脚本のお医者さん【スクリプトドクター】(※)としても活躍する三宅隆太さんが書かれた『スクリプトドクターの脚本教室』というものがあります(現在は、初級編と中級編が発売中です。上級編、いつまでも待ってますよー!)。
この本は、脚本の書き方や、行き詰まった際のブレイクスルーの仕方などを段階的に解説しつつ、同時に、脚本を書く、物語を書くことで、心理的にはどのような効果があるのかというようなカウンセリング的側面もあり、単純な技術本というより、自己啓発本的な側面もあるという、とても面白い作りの本だったりします(特に初級編は自己啓発的アプローチが多めです。逆に中級編は技術的アプローチ中心ですね)。
その本に書かれていた中に、「主人公をとことん追い詰めることができる脚本は、優れた(面白い)脚本である」というような趣旨の言葉が出てきます。
これ、個人的にはとても納得してしまったのですが、皆さんも、映画やその他エンタメでも分かると思うのですが、観ていて面白いと感じたり、集中してしまったりするのって、大体、主人公や登場人物達がピンチの時だったりしますよね?
そこからどう逆転するのか、あるいは、そのままドン底へ突き落とされて終わるのか……多くの場合、作品のキモはそこだと思います。
実際『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のような「終わった……」からの大逆転や、『ミスト』のように「こんな目に絶対あいたくないわ……」という展開がある作品には、名作が多いですし、多分、皆さんの大好きな作品にも、そういうものがあるのではないでしょうか?
主人公や登場人物が追い詰められれば追い詰められるほど、物語は起伏が激しくなり、展開はうねりにうねるわけですから、考えてみれば当然ではありますよね(笑)
そして、だからこそ、ご都合主義的で主人公に甘い作品は、つまらないものが多くなってしまうのです。
その点で言うと、本作は「これでもか! これでもか!!」とガンガンに主人公を追い詰めていきます。
自分の子供が死んでしまうというだけでも、かなりの追い詰められっぷりなわけですが、本作の場合、最終的には、それすらもまだ救いがあったと思えるところまで主人公を突き落としてしまうのですから、とにかく凄まじいです……。
主人公を極限まで追い詰めるということは、それすなわち、極限まで面白い脚本だということです。
好みは分かれるでしょうし、人によってはかなり食らってしまう物語だとは思いますが、感情のジェットコースターっぷりは保証します……!!
※映画の脚本というのは、ほぼ必ず、2度3度ではきかないほどの数の膨大な書き直しを経て完成するものなのですが、中には、書き直しを重ねるうちに、展開が迷子になってしまう場合があるそうなのです。そうなった時に、脚本の問題点を見つけ、修正できるようにする役割が、スクリプトドクターという仕事です。多くの場合はノンクレジットかつ、日本ではそもそもスクリプトドクターが少ない(一説には10人に満たないという話も……今は増えているかもしれませんが)ということもあり、映画好きでもあまり知らない仕事だったりしますね。
まとめ
ということで、『真夜中のゆりかご』のご紹介でした。
とにかく展開が予測不能かつ容赦ない作品なので、皆さんにもそれを楽しんでもらえるよう、なるべくキモを外しつつ、興味を持ってもらえるようにご紹介したつもりなのですが、いかがでしたでしょうか?(笑)
基本的には、誰が観ても衝撃的な作品だとは思いますが、やはり、特に私のような子育て中の方は、男性女性それぞれにドスンと来る作品だと思います。
機会があれば、ぜひ、ご覧下さい!
※本日ご紹介した『真夜中のゆりかご』は、2020/5/16現在、アマゾンプライムビデオにて、無料配信中です。
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