裁けぬ罪をどうすればいい?『検察側の罪人』
どうも、とりふぁです。
犯罪を考える上で、切っても切れない問題が、【時効】です。
犯した罪に対し、期限を設けることで、その期限を過ぎた罪を【法的には裁けなくする制度】ですね。
一つの罪に対し、疑似的な賞味期限を設けることで、時が経つことにより段々と立証が難しくなる犯罪に、いつまでもリソースを割き続けるという無駄を省くための制度が【時効】なわけですが、一方で、被害者や遺族の気持ちを放り出すことになるため、効率上仕方のない制度とはいえ、心情的には難しい制度でもありますね。
故に、映画や小説、漫画などのフィクションの世界では、時効をむかえた犯罪に対し、その被害者や遺族が独自に捜査を進め、私的な復讐を行うというような、一種のリベンジ(復讐)作品も数多く生まれてきました。
今回ご紹介する『検察側の罪人』も、大枠ではその系譜に当たる作品ですが、本作における復讐者は、同時に、検察という司法制度の一員でもあるというのが大きなポイントとなっています。
それでは、ご紹介していきましょう!
『検察側の罪人』のあらすじ
2012年4月、大田区蒲田で老夫婦二人が刺殺されるという殺人事件が発生。
担当するのは、凄腕検事の最上と、彼の教え子でもある、刑事部へ配属されたばかりの沖野であった。
やがて、警察の捜査により、複数の容疑者が浮上するのだが、その中の一人、松倉は、既に時効を迎えた、荒川で女子高生が強姦の上絞殺されたという未解決事件の最有力容疑者であり、そして、その事件の被害者となった久住由季は、かつて、最上が妹のように可愛がっていた少女でもあった。
そのような経緯から、最上は、今回こそ松倉を裁き、由季の復讐を遂げる絶好の機会だと信じ、松倉を犯人と断定し、捜査を進めていく。
しかし、そんな中で、犯人しか知り得ぬ情報を持つ、もう一人の有力容疑者が現れてしまう――。
「荒川の事件、俺だよ――。首絞めたのが先かな。イッたのが先だったかな――」
レビュー
キムタクとニノ、海外映画経験済みジャニーズスター同士による迫真の演技対決
本作の話題の一つとしては、やはりジャニーズきっての実力派二大スター夢のW主演というのが挙げられると思います。
一人は、『硫黄島からの手紙』でイーストウッド作品に参加した二宮和也。
そしてもう一人は、『2046』や『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』でウォン・カーウァイやトラン・アン・ユンというアジアの曲者監督作品に参加した木村拓哉。
個人的には、二宮さんは個性を消した演技をし、木村さんは役を個性に寄せる演技をするという印象です。
そのため、木村さんは、監督がしっかりコントロールをしないと、結局【木村拓哉になってしまう】という弱点があると思うのですが、その分、きっちりハマった際の爆発力は圧倒的だと思いますね。
その点で本作はどうかというと、いい意味で木村さんが己を殺した演技をしているので、非常に見応えがありました。
「こういう演技もできるのか……!!」という新たな発見といいますか。
とにかく、本作の木村さん、よかったです。
対する二宮さんですが、これは脚本の問題だとは思うのですが、あまりにもセリフがセリフらし過ぎて、逆にちょっと厳しい印象。
なんていうか、【そんな人いねぇよ感】というか、【意識高い系の痛い若者感】がちょっとキツかったです。
とはいえ、本作の白眉をさらっていったのは二宮さんかなとも思うので、やっぱり演技力は凄いものがあると思います。
というのも、中盤の尋問シーンの二宮さん(とそれを受ける酒向芳さん!)が素晴らしく、「あ、こういう気まずい現場に立ち会ったことある……!」と思わされるのです。
あの演技は素晴らしかった!!
ということで、ジャニーズ対決としては、全体的には木村さんが優勢なものの、一転突破的な魅力の二宮さんも素晴らしいという、なかなか面白い対決になってると思いますよ!!!
脇を固める俳優陣も素晴らしい
さらに、脇を固める俳優陣も素晴らしいです。
まずは、独自の目的を持ちながらも、沖野の精神的支えともなってくる橘を演じた、吉高由里子。
憑依系女優の面目躍如といった演じっぷりで、普段の「この人大丈夫か?」っていうチャランポランな面を一切見せず、素晴らしい演技を見せてくれました。
次に、ある意味で物語のキーマンとなる諏訪部を演じた松重豊。
近年では、私も大好きな『孤独のグルメ』のゴローちゃん役など、可愛げのあるオッサン役が多い印象の松重さんですが、本業(?)は、こわもて役ということで、本作では、独自の美学を持つ裏社会の住人、諏訪部を、アウトローな魅力たっぷりに演じています。
二宮さんとの取り調べシーンの「こういう感じの嫌な人いる」な嫌らしさは最高ですし、その後の裏社会のプロとしてのカッコよさもたまりません(とはいえ、この諏訪部の存在こそが、本作においてはちょっと問題でもあるとは思います。詳しくは後述)。
そして何より素晴らしい演技を披露してくれたのは、本作きっての純然たるクソ野郎、松倉を演じた酒向芳です!!
彼の演じる松倉のクソっぷりは、本当にたまりません……!!!!
差別的な意図は全くないのですが、少し知恵が遅れてるというか、何かしらの疾患を抱えているような性犯罪者って、たまに出てくると思うのですが、もう、あのいたたまれない感じが完全再現されています。
胸糞悪い。でも、ちょっと不憫でもある。でもやっぱり許せない。
あの演技は圧巻です。
その他も、ちょっとしたところで出てくる俳優さんすらビッグネームばかりで、まさにオールスターキャストと言える一本だと思います。
裁けぬ罪をどう扱うのかという問い
さて、そんな豪華俳優陣に彩られた中で描かれるテーマは、ずばり「裁けぬ罪をどう扱うのか」という問いです。
正直、そうしたテーマを扱った作品は多いです(うちのブログで扱ったものだと、『アフターマス』辺りも同じようなテーマかと思います)が、その中で本作に特筆するべき点があるとすれば、それは、復讐者が法の番人であるというところでしょう。
それも、警察という実力行使し得る機関ではなく、検察という、追及するだけの機関であるというのも面白い点だと思います。
しかも、復讐者たる最上は、あくまでも【法で裁けぬ罪を、それでも法で裁こうとしている】というところがまた面白い。
そのために彼は、復讐の発端となった事件とはまた別の事件の容疑者として浮上してきた松倉を、その事件の犯人に仕立て上げようとしていく、つまりは【冤罪】を生もうとしていくわけです。
【法で裁けぬ罪を法で裁くために、法を犯す】という二重の矛盾が生み出すテーマ的面白さは、他に類を見ないものだと思います。
この着眼点こそ、本作の面白さであり、深みなのです。
脚本を頑張ってほしかった……!
しかしながら、その素晴らしい着眼点を脚本が活かし切れているかというと、そこには疑問が残ります。
というのも、この【国家権力に属する者】が【法で裁けぬ罪を法で裁くために、法を犯す】というテーマ、そして、【冤罪】という手口を【リアリティを持って描く】というのが本作の意義だと個人的には思う(リアリティがなくていいなら、それこそ復讐者が相手を追い詰めて殺すという普通の復讐モノでいいわけなので)のですが、しかし、脚本の段階でその【リアリティ】の部分は諦めてしまっている(原作未読なので、原作から既にそうなのかはわかりません)のです。
というのも、前述した松重豊さん演じる諏訪部が万能過ぎるのです。
諏訪部は、裏社会のスペシャリストとして登場し、様々な場面で最上をアシストするのですが、リアリティを持たせるなら、このキャラクターはそもそも登場させるべきではありませんでした。
というのも、この裏社会のスペシャリストという存在、現実にいますかね? ってことなんです。
いや、もしかしたらいるのかもしれませんけど、でも、我々鑑賞者からすると、どうも現実から乖離した存在にしか見えませんし、そもそも、何事も彼がいればどうにかなってしまうので、万能過ぎます。
諏訪部を出さずに、どこまでリアルに描けるか。
欲を言わせてもらえば、ここにこそ挑戦して欲しかったなと思いますし、それができていたならば、本作は、歴史に残る傑作になっていたかもしれないとすら思います。
それほどまでに、この諏訪部という存在を許してしまった脚本の甘さが残念でなりません……(スポンサーとの折り合いなど、色々あるのかもしれませんが……)。
その他にも、「もしかしたら原作にあるのかもしれないけど、この要素、いる?」というような政治闘争、政治批判的な部分もオミットすべきだったと思います。
言いたいことは分かりますが、本作のテーマとはあまりにもかけ離れていて、ノイズ以外の何物でもありませんでした。
物語の焦点を最上、沖野、松倉の三人と二つの事件だけに絞り、諏訪部を出さず、もっとタイトでソリッドな映画になっていたら、本当、歴史的大傑作だったはず……。
まとめ
というわけで、『検察側の罪人』のご紹介でした。
個人的には、テーマの面白さや、それに対する演者の熱演も素晴らしい作品でしたが、いかんせん脚本が頑張りきれなかったなという印象の一本でした。
その他、こういうメインを張る邦画(主にテレビ局主導系)にありがちな、不必要な演出やディテールも気になる作品ではありました。
なんだろうな、未だに日本の映画業界(あるいはテレビ業界)は、「こういう表面的な面白さがないと映画観れないでしょ?」っていう感じで、観客をナメてるんだろうな……。
ちょっと話しが横道にそれましたが、木村拓哉さんの新境地を観るだけでも価値のある作品ですし、脚本はどうあれ、扱おうとしたテーマの凄みは感じられる作品だと思います。
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