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ようやく区切りがつくのか?『殺人の追憶』

2019年9月。

韓国で、時効を迎えた、とある事件の容疑者が特定されました。

その事件は、華城連続殺人事件と呼ばれており、1986年から1991年にかけて、ソウル近郊の華城群(華城は、ファソンと読みます。現在は華城市となっているようですね)にある農村地帯で、10代から70代までの女性10名が、強姦された上で殺されるという、非常に痛ましい事件です。

今回ご紹介する『살인의추억/殺人の追憶は、その事件をモチーフに、2003年に公開されたサスペンス映画です。

現実の事件を題材に映画化した作品はいくつもありますが、中でも、本作は、何とも言えない余韻を残す名作です。

『살인의추억/殺人の追憶』のあらすじ

1986年10月。のどかな農村地帯の用水路で、手足をストッキングで縛られた女性の遺体が発見される。

当然、警察による捜査が進められるが、これといった進展はなく、そんな警察を嘲笑うかのように、再び、同じような手口で女性が殺害されてしまう。

躍起になって捜査する、地元警察のデコボココンビ、パク・トゥマンとチョ・ヨングであったが、その捜査方法は、予断をもとに証拠を捏造し、さらには、拷問による自供の強要まで行うなど、ずさんで強引なものだった。

そんな中、ソウル市警の若手刑事、ソ・テユンが赴任してくる——。

「この間も、おじさんと同じことをしていた人がいたから」

youtu.be

レビュー(ネタバレなし)

まえがきにも書いた通り、現実の事件をモチーフにした映画は、いくつもあります。

例えば、かの有名な切り裂きジャックを題材にした、フロム・ヘルアメリカで起こった劇場型殺人、ゾディアック事件を描いた『ゾディアック』

邦画なら、埼玉愛犬家連続殺人事件から着想を得た冷たい熱帯魚や、上申殺人事件を扱った『凶悪』なんていうのもありますね。

そのどれもに共通するのは、どことなく陰鬱な雰囲気が漂っているところだと思います。

しかしながら、本作には、その陰鬱な雰囲気があまり感じられません。むしろ、全体的には、コメディのようなタッチで物語が進んでいきます。

コメディ……なのか?

コメディのように進む要因は、ソン・ガンホ演じるパクと、キム・レハ演じるチョの、漫才のように軽妙なやり取りが大きいでしょう。

ソン・ガンホと言えば、漢江に現れた怪物と、その怪物にさらわれた娘を助けようとする家族との戦いを描いたグエムル-漢江の怪物-』や、男達の三つ巴の戦いを描いた、韓国版マカロニウエスタン『グッド・バッド・ウィアード』でも、やはり、コメディリリーフ的な役を演じていました。

私は、韓国映画にそこまで明るいわけではないので、断言はできませんが、ソン・ガンホは、どちらかと言えば、そういうファニーな役回りを演じる役者だと思います。

キム・レハの出演作は本作しか観ていませんが、なかなかいい味を出す俳優さんで、思わずクスッとさせられます。

本作の前半は、のどかな田舎を舞台に、そんな二人が演じるお間抜けデカ二人が、見当違いな捜査で事件を解決しようと躍起になる姿が描かれます。

そこに、ソウル市警から回ってきたよそ者として、キム・サンギョン演じる、ソが現れ、二人の(というよりも地元警察の)捜査に呆れつつ、独自捜査を開始し、ようやく物語が動き出すのです。

そこからは、ところどころ、サスペンス的な緊張感が走るシーンが出てきます。しかし、それでもなお、基本的にはのどかな雰囲気で展開していくのが、本作の特徴です。

しかし、だからと言ってコメディではありません

これは、現実の事件を扱った、極めて社会派な作品なのです。

コメディではない

改めてになりますが、本作は、基本的にコメディっぽい雰囲気で進んでいく作品です。しかし、ここに【現実】というフィルターをかけると、一気にその意味が反転します。

要するに、本作前半で描かれるコメディ的な【見当違いの捜査】は、【現実に起こってしまったこと】なのです。

これは言うまでもないことですが、殺人事件に限らず、どのような事件においても、初動捜査というのは、非常に重要です。

なぜなら、事件発生から、時間が経てば経つほど、【犯人に時間を与えてしまう】というだけではなく、捜査のはじめの一歩が少しでも間違っていれば、【その後の捜査は明後日の方向に向かって突き進んでしまう】からです。

そして、真実にたどり着いた頃には全てが手遅れ。いや、真実にたどり着けず、迷宮入りしてしまうことも珍しくはありません。

事実、本作のモデルとなった連続殺人事件も、時効を迎えてしまっています。つまり、やっと容疑者が特定されたにも関わらず、この事件の罪は問えない。全ては手遅れなのです。

そうなってしまった原因は、地元警察のずさんな捜査態勢ゆえに他なりません(ここら辺のことについては、詳しく書かれている、韓国ネット新聞の記事の日本語版がありますので、巻末にリンクしておきます)。

そう、本作は、そういった当時の地元警察のずさんさをコメディタッチで描くことにより、改めて指摘し直しているのです。

未解決事件ゆえの余韻

そんな本作も、終盤では一気にシリアスの度合いが深まり、韓国映画特有の【人間の闇を覗き見る】かのようなトーン(個人的には、韓国映画には、こういうものを求めています。たしか、恨【ハン】という概念だったかと)に切り替わります。

そして迎えるラストシーン。

それは、未解決事件を扱うがゆえの、なんとも言えない、無常な余韻を残します。

まとめ

以上、『殺人の追憶』のご紹介でした。

ここまで述べてきた通り、本作はコメディのように進みつつ、最終的には非常に暗く深いところへ落ちていくという、とても振り幅の大きい作品です。

また、本作を見終えたあとの余韻は、ちょっと、他の映画では味わったことがない類のもので、極めて独特です。

つまるところ、それだけでも本作を観る価値は大アリです。

また、容疑者が特定されたというタイミングの今だからこそ、観るべき作品でもあると思います。

被害者の方と、その周りの人々の無念は計り知れませんが、事件から30年以上経ち、ようやく、一つの区切りをつけられることを祈っています。

 

※今回ご紹介した『殺人の追憶』は、2019/10/8現在、アマゾンプライムにて無料配信中です

以下は、今回参考にした華城連続殺人事件についての記事です。興味のある方は、ご一読ください。

参考記事:HANKYOREH

30年でようやく「華城連続殺人事件」容疑者を探し出しても警察が笑えない理由とは : 政治•社会 : hankyoreh japan