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ニュースは【作られる】『ナイトクローラー』

どうも、trifaです。

皆さんは、普段、ニュースをご覧になりますか?

正直、私は、夕飯の際などになんとなくは流し見する程度で、あまり意識的に見たりはしません。

なぜなら、どんなに重大なニュースでも、最初から最後まで報道されることは少なく、断片的な情報と、分かったような分からないような解説や、どうでもいい芸能人のコメントが数日流れて、その後はまた別のニュースへとうつろっていくばかりだったり、あるいは逆に、どうでもいいニュースが連日報道されたりして、真剣に見てもしょうがない、と思ってしまうからです。

第一、今の時代はテレビや新聞以外にも情報を得ることが容易にでき、しかも、情報の取捨選択までこちらでコントロールできるため、本当に大事なニュースや、自分に関係のあるニュースはいくらでも調べることができるので、テレビや新聞の必要性をそこまで感じないというのもあります(ただし、自分が全く見聞きしたことのないことは調べられないので、そういう意味ではテレビや新聞も必要なんですけどね)。

ではなぜ、テレビのニュースがすぐにうつろったり、あるいは、大した情報もないのに連日報道されるニュースが出てきたりしてしまうのでしょうか?

そこには様々な理由があるのでしょうが、その一つとして確実に存在するのは、【視聴率】という、テレビ業界にとって絶対とも言える数字の存在です。

本日紹介するのは、そんな視聴率とテレビニュースの関係の暗黒面を覗き込むような作品、ナイトクローラーです。

 

ナイトクローラー』のあらすじ

ルイス・ブルームは、定職につけず、盗品などを売り捌いて生計を立てていた。

そんなある日、彼は、偶然にも交通事故現場をゲリラ的に撮影するクルーと出くわす。

興味本位でその報酬を尋ねた彼は、その額に驚き、「これこそ、自分が始めるべきビジネスだ」との天啓を得るのだが——。

「僕は、人の破滅の瞬間に顔を出す」

 

レビュー

ジェイク・ジレンホールの演技に痺れる

本作一番の魅力は、なんといっても、主演のジェイク・ジレンホーの演技でしょう。

当ブログでも扱ったプリズナーズでは、寝不足気味で気怠そうな切れ者刑事を見事に演じていましたが、本作では、同じく切れ者であることは変わらないものの、もっと俗物的で、自己顕示欲の塊のような、ある種の狂人を演じています。

 

しかも、狂人と言っても、記号化された、いかにも狂った演技というわけではなく、本人的にはいたって自然で、当たり前のことを行なっているのに、周囲からは微妙に、そして、時として決定的にズレているという、極めてリアルな狂人です。

なんなら、誰しもが日常生活の中で、一度は見かけたことのあるような不自然さを持つ人物だと思います。

この様な、一見、普通にしているのに、歩く姿や目つきなどの違和感で狂っていることを表現するという演技は、なかなか出来るものではありません。

そんな、彼の超一流な演技があってこそ、「コイツ、何をやらかすか分からないぞ」という緊張感が全編通して横たわっており、決して派手な映画ではないながら、最後まで緊迫感を持って物語を追うことができるのです。

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クソ野郎のサクセスストーリー

本作を端的に表すなら、「クソ野郎のサクセスストーリー」ということになると思います。

正直、はじめの頃は、不器用なルイスの不遇な境遇に同情的に観てしまっていたのですが、ルイスが成功を掴む度に、本来持っていたのであろう彼の狡猾な部分や、人をモノとしてしか見ていない部分などがあらわになってきて、段々と共感できなくなってきます。

最終的には、「コイツ、マジでクソ野郎だな……!」というところまで行き着くのですが、いかんせん、彼の戦略の見事さや、口八丁のみで相手をねじ伏せ、自分の要求を押し通していく姿は、爽快感さえあります。

そう、我々鑑賞者は、共感できない、したくないと思う一方で、「いいぞ、もっとやれ!」という気持ちにもさせられてしまうのです。

絶対に共感できない、あるいは、したくもない人物に、半ば強制的に共感させられてしまう。

これは、映画という芸術ならではの面白さだと思います。

虚構の街で虚構を作り上げる者達

本作の舞台は、カリフォルニア州ロサンゼルス。もっと言えば、ハリウッドの周辺です。

もちろん、ハリウッドと言えば、言わずもがな、世界最大の映画産業都市です。

それはつまり、【映画という名の虚構を作り上げることに特化した街】とも言えます。

そして、本作は、そんな虚構の街を舞台に、事件や事故といった、【現実の惨劇】を材料に、より劇的に演出し、【虚構の悲劇】を作り出していく者達の物語なのです。

すなわち、本作において、物語が描き出そうとしているモノと舞台となった街には、密接な関係があります。

だからこそ、本作は、ハリウッドの有名な景色のモンタージュで始まるのです(※)。

 

※完全に余談なのですが、GTAV(グランドセフトオートV:カリフォルニア州の有名なロケーションをほぼ完全再現したオープンワールド形式のビデオゲームです。ちなみに、映画や音楽などを全て含めたコンテンツの中で、世界で最も売れたエンタメ作品としてギネスブックにも登録されています)をプレイしたことがある方は、本作で展開するシーンのほぼ全てが、大体どこら辺で起きているのか把握できると思います。そういう意味で、ハリウッド観光映画的な側面が本作にはありますね(笑)

 

本作が描き出す真実

そんな、【虚構】にまみれた本作ですが、しかし、その中で描き出されていることは、ある種の事実に他なりません。

まずは、世界中で日夜流され続けているニュースの真実

本作は、もちろん多分に誇張されている部分もありますが、しかし、【テレビ局は、人が注目する=視聴率を狙えるニュースしか流さない】ことや、そのために、【時として、過剰な演出や、偏向報道、人道を踏み外した取材を行なっている】のは事実ですよね。

皆さんも、テレビで、事件や事故の傷や記憶がまだ生々しく、まともに受け答えできる状態じゃない方にインタビューをしていたり、「撮ってる場合かよ!」と思わされるような画が流れているのを毎日のように見かけると思います。

そして、どの局も同じようなニュース、それも、我々の日常にさほど関係があるとも思えないニュースをメインに日々放送し、そして、そのニュースの旬が去ったら、また違うニュースへと飛びついていくのです。

これは、まぎれもないニュースの真実でしょう。

また、本作で成功していくルイスについても、私は、一つの真実を描いていると思うのです。

それは、【社会で成功しているのには、確かに、こういう人間が多い】ということです。

つまり、他人をモノのように扱い、自分の要求だけを押し通すような人物です。

もちろん、そんな風ではなく、思いやりの心を持ち、成功をおさめた方もたくさんいらっしゃるのは分かっています。

というか、真に成功し、そして、その成功を維持していくのには、そうした善の心は必要不可欠だと思います。

しかしながら、一方で、ちょっとした成功、我々のそばにいるレベルのお金持ちや、高い地位を得た人には、本作のルイスのような人間が多いと感じるのです。

事実として、例えば、私は何度か転職をしているのですが、とある零細企業の社長は、社員をモノとしてしか考えておらず、更には会社ごと私物化し、休みの日に自分の趣味を強制的に手伝わせるということ(2〜3日拘束された挙句、2〜3,000円程度の交通費しか出ません)や、自分の海外旅行の費用を、研修と称して経費で落としていたりしました。

あるいは、営業の会社では、優秀な営業成績をおさめている社員ほど、お客さんが損をして、自分が得をする商品をたくさん売りつけ、その後のフォローは他人任せといった有り様。

本作の主人公は、そういうレベルの、つまりは、日常で出会うことのあるレベルのクソ野郎であり、そして、そういうクソ野郎は、えてして、ある一定の成功をおさめるものなのです(ちなみに、両社とも、現在は業績が大変なことになっちゃっています。天罰ってことですね)。

まとめ

というわけで、ナイトクローラーのご紹介でした。

クソ野郎のサクセスストーリーを軸に、テレビ業界の裏側や、人を利用して成功するタイプの人間のリアルを描いた傑作だと思います。

しかも、ルイスの行動に、倫理的には拒否感を抱きつつも、クライマックスでは、そのルイスの行動のお陰で、我々も楽しませられているという皮肉な矛盾まで内包した本作。

なかなかに考えさせられる一本ですね。

 

ちなみに、MIHOシネマさんで、より詳しいあらすじ等も読むことができます↓

mihocinema.com

※本日ご紹介した『ナイトクローラー』は、2019/11/28現在、アマゾンプライムビデオにて無料配信中です。