神と悪魔の代理戦争『プリズナーズ』
どうも、trifaです。
本日ご紹介する作品は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品、『プリズナーズ』です。
当ブログでは、以前に同監督の『ボーダーライン』を扱っていますね。
本作は、娘をさらわれた父親と、その事件を追う刑事とを主役にした、極めて小さな話を描くミステリーなのですが、しかし、最終的には、表題の通り、神と悪魔の代理戦争という、壮大なスケールの物語に帰着する、非常に興味深い作りを持った作品です。
今回は、そんな作品をネタバレなしでどこまで語れるか……チャレンジします!(笑)
『プリズナーズ』のあらすじ
ペンシルバニア州のとある田舎町で、工務店を営むケラー・ドーヴァー。
彼は、敬虔なクリスチャンとして、日々、信仰を胸に生活していた。
そんなある日、感謝祭を家族や友人と共に祝っている時に悲劇が起こる。
彼の娘であるアンナと、友人の娘であるジョイが、突如として姿を消してしまったのだ。
彼の息子、ラルフの一言により、誘拐事件の可能性が示唆された警察は、ロキ刑事の活躍もあり、事件に関わったと思われる一台のRV車と、その運転手を確保することに成功する。
しかし、RV車からは一切の証拠が出て来ず、また、最有力の容疑者と思われていた男も10歳程度の知能しかないため、今回のように緻密な犯行は不可能と推定され、釈放されてしまう——。
レビュー
一つの事件に二人の探偵役
まず、本作の特徴としては、一つの事件に対し、全く異なるアプローチをする二人の探偵役がいる、ということだと思います。
一人は、今までに関わった事件は全て解決してきたという優秀な刑事、ロキ。
彼は、すべての物事をフラットな視線から眺め、一つ一つ積み上げながら地道に捜査を行なっていきます。
そして、もう一人は、娘を奪われた父、ケラー。
彼には捜査の経験がなく、また、娘を奪われたという怒りや焦燥感から、非常に極端な手段に出てしまいます。
二人はそれぞれの手段で事件の核心に迫ろうとするわけですが、正直な話し、物語上は、二人のうちのどちらもが、事件の輪郭を撫でるだけで、なかなか真相に迫ることができません。
ロキは全ての可能性を捨てず、地道に捜査するからこそ時間がかかり、ケラーは、思い込みが激しいからこそ時間がかかり……といった具合で、鑑賞中は、遅々として進まない事件の進展にやきもきするでしょう(実は、後から考えてみると、割と序盤で二人とも事件の真相に肉薄していたりするのですが……)。
しかし、だからといって本作がつまらないかと言えばそんなことはなく、寧ろ、遅々として進まないからこそ、事件の不穏さや底知れなさが常に感じられ、静かかつゆっくりとした展開の映画ながら、とてもスリリングです。
物語の随所に登場する、宗教的モチーフ
本作の幕開けは、ケラーがキリスト教の祈祷文『主の祈り』を捧げるところから始まります。
ちなみに、こんな内容です。
天にまします我らの父よ。
ねがわくは御名をあがめさせたまえ。
御国を来たらせたまえ。
みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ。
我らの日用の糧を、今日も与えたまえ。
我らに罪をおかす者を、我らがゆるすごとく、我らの罪をもゆるしたまえ。
我らをこころみにあわせず、悪より救いいだしたまえ。
国と力と栄えとは、限りなくなんじのものなればなり。
アーメン。
普段からハリウッド映画をよく観る方なら、食事のシーンなんかでよく見かけると思います。
多くの作品においてこの祈祷文は、そのキャラクターが敬虔なクリスチャンであるということを示すだけだったりしますが、本作の場合は違います。
というか、この祈祷文の内容がそのまま本作の内容と言っても過言ではありません。
なぜそうなのかまで書いてしまうと、さすがにネタバレを避けられなくなってしまうので、そこは実際に観て確かめて下さいね。
とにかく、このことからも分かる通り、本作は極めて宗教的(もっと言えば、キリスト教的)な物語なのです。
その暗示として、本作では宗教的なモチーフが、多々登場します。
まず、誘拐される娘の名、アンナ。
これは、聖母マリアの母として伝えられる女性の名であると同時に、プロテスタントにおいては、イエスのことをエルサレムに広めた預言者の名でもあります。
次に、ロキ刑事。
ロキとは、北欧神話最大のトリックスターにして、極めて頭のいい悪戯好きの神の名です。様々な別名がありますが、本作においては、【閉じる者】や【終える者】という別名が最もしっくりくるように思えます。
その名を冠するロキ刑事は、登場時に干支の話しをしていたり、フリーメイソンらしき指輪を嵌めていたり、また、北極星か太陽かのモチーフの刺青や、梵字のような刺青が入っているところからも、彼は【キリスト教とは切り離された者】として描かれています。
それゆえ、キリスト教的な世界観が根底にある本作において、彼はその力を十分に発揮することができないのです。
そして、最後は蛇。
本作のとあるシーンにおいて印象的に用いられる蛇ですが、それはつまり、本作の裏側に、悪魔サタンがいることを暗示しているのです。
その他にも、細かく見ていくと様々な宗教的モチーフや言葉が出てくるのも本作の大きな特徴です(ケラーの仕事が、工務店、つまりは大工の手伝いというところもキリスト教的モチーフですね)。
なぜなら、本作はミステリーの皮を被ってはいますが、その本質は神と悪魔の代理戦争だからです。
なぜ、ただの誘拐事件がそこまで壮大なスケールになっていくのか、それは、自分の目で観て確かめて下さい。
まとめ
というわけで、『プリズナーズ』のご紹介でした。
『ボーダーライン』シリーズも大好きなのですが、『プリズナーズ』もまた素晴らしい作品ですね!
『ボーダーライン』も、物語上、本当は何が行われているのか分からないまま、終盤まで引きずられていくような作品でしたが、本作もまた、その様な作品でした。
そしてまた、登場人物や起きている事件から一歩引いたクールな視点で物語が進み、だからこそ、痛いほどの静けさが常に付きまとってくるという、この緊張感。
いやぁ、個人的には大好きですね。
主演の二人、ヒュー・ジャックマンとジェイク・ギレンホールの名演も見事ですし(特に、ジェイク演じるロキの寝不足っぽい瞬きが最高!!)、事件の鍵を握る青年、アレックスを演じるポール・ダノの不可解で不気味な演技も素晴らしいです。
正直、あまりにもキリスト教色の強い作品なので、ピンと来ない方も多くいるとは思いますが、私個人としては、非常に満足のいく作品でした!
※本日ご紹介した『プリズナーズ』は、2019/11/19現在、アマゾンプライムビデオにて、無料配信中です。