【生涯ベストを語る】第二回『ダークナイト』
どうも、trifaです。
今回は、私の生涯ベスト級作品を語る不定期連載、【生涯ベストを語る】の第二回です。
前回は、『ダイ・ハード』を取り上げました。
第二回となる今回も、やはりド定番であり、今現在ヒットを続けている『JOKER』とも関連のある作品、『ダークナイト』です!
『ダークナイト/The Dark Knight』のあらすじ
犯罪が横行し、腐敗の進む都市、ゴッサム・シティは、マフィア・ギャングの台頭や、影の同盟による大規模テロなどもありつつも、なんとか治安を維持してきた。
彼は、ゴッサム・シティに本拠を置く巨大企業、ウェイン産業のCEOであり、巨万の富を持つ大富豪として日々を過ごすかたわら、ゴッサムの闇に紛れて悪を討つクライム・ファイター、バットマンとして活動していた。
法を超えた彼の活動は悪人達に恐怖を与え、それにより、マフィアやギャングの活動も鳴りを潜め、恐怖という名の圧力による平和が実現されつつあった。
しかし、過ぎた圧力は内部からの爆発を招く。
そして、バットマンという強力な圧力をかけられたゴッサムに、その圧力を跳ね除けるかのように、混沌の使者が現れた——。
「何をそんなにシケたツラしていやがるんだ?
さぁ、笑顔を刻んでやるよ
Why so serious? Let’s put a smile on that face!!」
レビュー
アメコミ映画最高傑作
はい、これまた説明不要な大傑作にして、アメコミ映画最高峰『ダークナイト』ですね。
個人的には、【映画として】本作を超えたアメコミ原作モノは、まだ出てきていないと思っています。
もちろん、今までにも何度か話題に出したようにMCUの一連の作品には、【エンタメとして】本作を超えたと感じた作品はありますし、今話題の『JOKER』は、【芸術として】本作を超えたと言ってもいいかもしれません。
しかしながら、エンタメと芸術、その二つの要素をバランスよく配合した、【総合芸術として】本作を超えた作品は、いまだに出てきていません(あくまでも個人の感想ですが)。
何も考えず、純粋なエンタメとしても楽しめますし、その裏にあるメッセージ性や、象徴化、記号化された様々な要素を考察し、芸術として観ることもできます。
つまりは、エンタメ好き、芸術好き、そのどちらの需要も満たすことができる。
本作は、それほどまでに完璧なバランスの作品なのです。
そして、それだけのバランスを持つアメコミ作品は、未だに現れていません。
だからこそ、『ダークナイト』は、完璧な傑作として、アメコミ映画の最高傑作として燦然と輝き続けているわけです。
エンタメとして楽しむ
本作は、『バットマン・ビギンズ』の続編でありながら、これといった予備知識なく、何も考えずに観ても満足できる構成になっています。
初見であれば、冒頭の銀行強盗シーンから、映画史に残る、衝撃的かつこれ以上ない完璧な結末まで、飽きることなく『ダークナイト』という極上の作品に没頭させられてしまうでしょう。
その理由は様々ありますが、やはり、まずは、ストーリーの巧みさが挙げられるでしょう。
本作では、ゴッサム・シティにジョーカーと呼ばれる、犯罪の鬼才が現れるところから始まります。
そして、彼を追う三人の男達が本作の物語の中心となります。
まずは、主人公であるビジランテ(自警団)、バットマン。次に、彼の良き理解者である刑事、ゴードン。そして、新任の検事であり、ゴッサム・シティの新たなる希望、ハービー・デントです。
この三人が、それぞれの正義感に従いながら、互いに協力し、かつてない最凶最悪の犯罪者、ジョーカーに立ち向かっていくのです。
この三人は、冒頭のわずか十数分ほどで、前作の敵であったマフィアを壊滅させるほどの連携を見せるのですが、しかし、そんな無敵とも思える三人の連携を持ってしても、全くジョーカーは止められません。
彼は常に三人の裏をかき、不気味な笑みを浮かべながら、三人の一歩も二歩も先を行きます。
最強の連携を持つ三人が、たった一人の狂人に翻弄される。
それがゆえに、観ている我々も、最後の最後まで、一瞬たりとも、先の展開を読むことができないのです。
そんなハラハラドキドキのスリリングな極上のサスペンスとして楽しむ中に、更に、クスリとさせられるユーモアや、様々なガジェットを駆使するバットマンの大立ち回りなどもバランスよく配されており、全く飽きる隙がありません。
事実、初見時、私は全く何の知識もなしに観たのですが、とあるシークエンスが終わった時、「いやぁ、面白かった! そろそろ結末かな」と思ったのですが、本作は、むしろ、そこからが本編だったのです。
これには、心底驚きました。
『カメラを止めるな!』とは意味が違いますが、ある意味本作も、【二度始まる】と言ってもいいかもしれません。
芸術として楽しむ
次は、芸術として本作を観ていきましょう。
まず目を引くのが、当時はまだまだ珍しかった、IMAXカメラをふんだんに使った、美しく、キリッとした画でしょう。
本作はアメコミ映画でありながら、徹底して、非常に美しい画づくりがなされています。
そして、その硬質で冷たさすら感じるエッジの立った画に、ハンス・ジマーの手掛けた、緊迫感溢れる豪華な楽曲が組み合わさることにより、【これぞ映画!】とも言える、目と耳で味わう快感が押し寄せてくるのです。
さらにそれが、物語上のクールでスタイリッシュな展開と絶妙にマッチし、【総合芸術】としての魅力が爆発します。
このように、目と耳で楽しむ芸術性もさることながら、本作は、頭で楽しむ芸術としても機能しています。
それは、本作で描かれている正義と悪の戦いが、(当時の)アメリカとテロリズムとの関係性のように見えてくるところです。
アメリカは、世界の警察として、強大な軍事力と多大な影響力を持って世界中を監視し、テロリズムを抑えてきました。
しかしながら、アメリカが強大な力を持てば持つほど、そして、それを誇示すればするほど、それに対抗すべく、テロリズムもより強大な力や、大きな被害を求めるようになっていきます。
そして、ついに、【9.11アメリカ同時多発テロ】が起こるのです。
その後もアメリカは、報復や更なる抑止のために軍事力を強化していきますが、その結果、テロリズムは無くなったでしょうか?
いいえ。
今日でもテロリズムの脅威は依然として健在であり、彼らの武装は強化され、なおかつ、その対象はより無差別的になっています。
光が強くなればなるほど、影はよりその濃さを増す。
強大な抑止力が、より強大な脅威を作る。
その矛盾を、本作では、バットマンとジョーカーとの関係性や、バットマンの用いる手段とその結果など、様々な象徴を用いて描いています。
そんなことを考えながら観ると、本作は頭でも楽しめる芸術となっていくのです。
キャストの名演・怪演が光る
さて、ここまでは物語の巧みさや、画づくり、音楽、メッセージ性などについて語って来ましたが、本作で忘れてはならないのが、主役から脇役まで、超豪華キャストで固められた完璧なキャスティングです。
まず、主人公、バットマンを演じるのは、前回から引き続き、クリスチャン・ベイル。
周りが思うブルース・ウェインを演じている時の、軽薄そうでありながら、育ちの良さを感じさせる立ち居振る舞い。
また、マスクを被ったビジランテ、バットマンとしての狂気すら感じさせる強固な存在感。
そして、そのどちらのマスクも外した、真のブルース・ウェインとして人間臭く苦悩する姿。
そんな三つの顔を待つ複雑なキャラクターを完璧に演じきっています。
そして、本作の魅力の大部分を占める最凶のヴィラン、ジョーカーとして鬼気迫る怪演を見せたヒース・レジャー。
一切のアイデンティティを持たず、ただただ混乱の使者として、何もかもを引っ掻き回すジョーカー。その、常人には到底理解できない闇の底のようなキャラクターと完全に同化した、演技と呼ぶことすらはばかられるほどの名演・怪演ぶりは、もはや映画史に永遠に輝き続ける伝説です。
彼は、ジョーカーになりきるために、たった一人、2ヶ月間もホテルに篭り、『時計じかけのオレンジ』のアレックスや、実在する様々なサイコパス、そして、ピエロについての研究を続けました。
その結果として、彼は完全にジョーカーと化すことに成功します。
姿形や立ち居振る舞いはもちろん、心の深淵までもジョーカーになりきった彼は、撮影中も度々、監督であるクリストファー・ノーランに演技プランや演出について進言し、「ジョーカーならこうする」と、様々なアイディアを盛り込んだそうです。
例えば、一度観たら忘れない、あの粗雑でありながら強烈なジョーカーのメイク。あれは、ヒース自身が素手で施しており、その名残として、劇中でも、手袋を外したジョーカーの指には化粧の跡がついています。
あるいは、劇中でも強烈な印象を残すジョーカーによる犯行予告ビデオ。あれは、ヒース自身が監督して撮っているのです。
そして、極め付けが、病院爆破のシーン。このシーンは、CGではなく、解体予定だった病院を実際に爆破して撮影したため、リテイクが効かないという状況での撮影でした。
しかし、そんな状況であるにも関わらず、爆薬が爆発しないというアクシデントが発生しました。そんな咄嗟かつ緊迫した状況の中、ジョーカーになりきっていたヒースは、ジョーカーらしいアドリブで場を繋ぎ、結果として、思わず笑ってしまう、本作でも屈指の名シーンが出来上がりました。
というか、そのアクシデントがなかったら、ここまで印象深いシーンにはなっていなかったかもしれませんね。
しかし、常人であるヒースが、狂人であるジョーカーになりきることは、彼の精神を蝕んでいきました。
そのため、彼は不眠症に陥り、薬がなければ眠れない体になってしまったのです。そして、その薬によるオーバードーズ(過剰摂取)のため、彼はこの世を去ってしまいました。
彼の死後に見つかった、撮影当時の手記は、完全に狂人のノートと化しており、また、彼の自室も、狂気を具現化したかのような空間になっていたとのことです。
ここまでして演じられたヒースのジョーカーは、まさに完璧以上であり、彼が登場するシーンは、大袈裟ではなく、全てが映画史に残るレベルの名シーンです。
その他、温厚なゴードン警部をゲイリー・オールドマン。バットマンに負けず劣らずの不屈の精神を持つハービー・デントをアーロン・エッカート。ブルースを支える執事アルフレッドには、マイケル・ケイン(※)。そして、バットマンをガジェット面で助けるルーシャス・フォックスをモーガン・フリーマンが演じています。
どの俳優も、押しも押されぬ名優揃いで、文句なしの演技アンサンブルを見せてくれます。
※ちなみに、マイケル・ケイン演じるアルフレッドが、劇中で初めてジョーカーと対峙したシーンは。実際の撮影時も、それがヒースとの初顔合わせという状況であり、そのジョーカーのあまりの恐ろしさに、本来言うべきだった台詞が飛んでしまったそうです。つまり、あのシーンのアルフレッドの恐怖に固まった表情は、素のリアクションということですね。
まとめ
というわけで、歴史的傑作『ダークナイト』のご紹介でした。
本作は、単独作品として非常に完成度の高い傑作ですが、同時に、クリストファー・ノーラン監督による【ダークナイト・トリロジー】の二作目でもあります。
それゆえ、単独で観てももちろん面白いのですが、やはり、『バットマン・ビギンズ』、『ダークナイト・ライジングング』とあわせて観ることでより深く楽しむことができます。
というよりも、このシリーズは三作品それぞれが有機的に絡み合っており、全作鑑賞することによって完成する一つの作品とも言えます。
ですから、是非とも全作観てみて下さい。
個人的には、三作合わせて【生涯ベスト】なので、絶対に後悔はさせませんよ!